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 約1300年も脈々と受け継がれてきた技に、現代の息吹を吹き込む挑戦を続ける伝統工芸士の集団がいる。大阪市の下町、東住吉区の大阪錫器(すずき)だ。職人が繰り出す卓越した技法は、国内のみならず海外の人をも魅了する。

 昨年6月の主要20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)。各国の首脳に地元を代表する記念品として「大阪浪華(なにわ)錫器 茶壺(ちゃつぼ) イブシ」が贈られた。錫と漆が生み出す絶妙の風合い。それを生み出した人たちだ。G20で首脳らが身につけていたピンバッジの制作にも関わった。

拡大する写真・図版G20大阪サミットの記念品「大阪浪華錫器 茶壺 イブシ」=大阪錫器提供

 錫器は溶かした錫を鋳型に流し込み、固まったものを削ったり磨いたりしてつくる。ただ、錫は軟らかいので加工は一筋縄にはいかない。「機械を使うと負けてしまい、きれいに仕上がらない。職人が研ぎ澄まされた感覚で削るのが、うちのやり方」。現代の名工でもある今井達昌社長(61)は、こう説明する。

 大阪錫器には20~80代の職人が20人ほど働く。うち6人が伝統工芸士の資格を持つ。

 磨きを担当する高井文晴さん(41)は、会社で2番目に若手の資格保有者だ。大学を卒業して印刷会社に勤務したが、ものづくりにあこがれて退職。金属工芸を学んでいる時、錫の魅力にとりつかれた。

 漆を塗った素材を磨く指先は繊細に動く。「繰り返し体で覚えること。作業の中でちょっとした違和感を感じられるようになるまで、体で覚えることが重要」という。

拡大する写真・図版鋳造で大まかな形にした後、職人が細心の注意で削り、製品を仕上げていく=大阪市東住吉区の大阪錫器

 今井さんは「伝統工芸に一人前なんてない」と力説する。一人前と思った時点で、技術の進歩が終わるからだ。

 たゆまぬ進歩を求め、新商品の開発に熱心に取り組む。漆塗りの技法を採り入れたり、ビール用のタンブラーなどを開発したり。若手職人のアイデアを積極的に採用することもある。製造段階で問題が生じれば、ベテランの職人が支援する。こうした仕組みを作ることで、職人を続ける熱意を冷めさせないという。

 「時代にあったもの、時代が求めるものを作っていかなければ、やがて技術は廃れてしまう」。今井さんが社長になって約20年で、売り上げは4倍以上の3億円を超えた。

 会社には数千個もの鋳型を保存している。古い製品の修理を頼まれれば、鋳型を見つけ出して鋳造する。必要な部分だけを切り出して、古い製品とつなげることもある。

 「非常に手間はかかるが、こうした対応ができるのも伝統工芸の技だ」(金井和之)

 大阪錫器 伝統的工芸品「大阪浪華(なにわ)錫器」を製造する最大手。錫器では全国でも7割近いシェアを持つ。江戸時代後期、京都から大阪に伝わった「京錫」の流れをくむ。3代目の今井社長は2012年、卓越した技能者を国が表彰する「現代の名工」に選ばれた。

拡大する写真・図版「死ぬまで成長」と技術の鍛錬にこだわる今井達昌社長=大阪市東住吉区の大阪錫器