チケット取れない一之輔、落語は「受けないときも必要」
井上秀樹
春風亭一之輔はチケットのとれない落語家と呼ばれる。月末の誕生日でまだ42歳。落語の有名なセリフ「どうみても厄そこそこ」なのに、ベテランの風情だ。心境を聞いても「ご機嫌な日常ですよ」とつかみどころがないが、若手の第一人者ならではの苦悩もにじませた。
多けりゃいい、じゃない
肩をそびやかして、もそもそっと語る。「ありがたいことに忙しいですよね。でも僕の理想の落語家とはちょっと違う方向に来てるんです」。本当は昼に1席だけ演じ、夕方4時から酒を飲み、夜9時に寝たいとか。
わかる気がする。高座にラジオに雑誌の連載コラムを抱える売れっ子。本業では、昼は寄席、夜は落語会を回って一日6席なんてときもある。年間高座数は800とも900とも言われるが「2万5千、て書いといて下さい」とうそぶく。「多けりゃいいってもんじゃない」と、数にこだわらなくなった。
もともと寄席に出たくて芸人になった。いまも「ある程度仕事を絞ってでも」出続けたいという。寄席を軽んじる落語家が少なくない中で、稀有(けう)な存在だ。
別の理由もある。
「独演会だけやってると僕は…