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 現実への違和感を、奇想に託してあぶり出す。目を背けたくなるような、汚物まみれの描写もいとわない。現代日本で、そんな「問題作家」を挙げるとすれば、その一人は間違いなく芥川賞作家の吉村萬壱さんだろう。今年でデビュー19年。作家の目に、現在の世界はどう映っているのか。新刊『出来事』(鳥影社)を出した吉村さんに聞いた。

拡大する写真・図版作家の吉村萬壱さん。大阪・心斎橋で同じく作家の玄月さんが営む文学バー「リズール」にて=大阪市中央区

 『出来事』は、ある日突然、偽物の世界に閉じ込められたと感じるようになった小説家が主人公。化け物のように醜い弟、色情狂の妻、奇妙な隣人たち――。連作短編を読み進めるうち、どうやら「チク」と呼ばれる場所があり、感染性の病気が封じられているらしいことがわかる。だが、どんな病気かはわからない。誰もがそれを口にしない。

「ほんとうの世界」は見えない

 「結局、この世界は作り物だということです。たとえば、目から入ってくる視覚情報が100%やとしたら、脳のなかに届くのは3%らしいんですよね。あとの97%は脳が勝手に作ってるイメージだっていうんですよ。だとすれば、この世界のほとんどは我々の脳のなかの世界で、ほんとうの世界は見えない」

 もし「ほんとうの世界」が見えたら、人はどうなってしまうのか。SF的ともいえる発想の根源には、ニーチェ哲学があった。

 「ニーチェは超人思想とかツァラトゥストラで有名ですけど、それだけじゃなくて認識論的なことも踏まえていて。読んでいると、ちゃんとそう書いてあるんです」

 「たとえば、あるちょっと頭のおかしい人が出てきたとしますよね。その人が見ている世界は、ほかの大多数が見ている世界とは違うとする。そしたら、その違っている人間の認識は、長い年月のあいだに淘汰(とうた)されていくんですよ。精神病院に収容したりとか、村八分にしたりとか。ようするに、別様の感じ方をする人は排除されてきた」

拡大する写真・図版『出来事』(鳥影社、本体1700円)

記事の後半では、どうして汚物まみれの世界を書きつづけるのか。そのわけに迫ります。

世界が綻びはじめている

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