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 長年勤めていたら世の中が変わり、経験やスキルを発揮できる担務や居場所は社内で与えられなくなった。そして「働かない」状態になった中高年社員を若手が「妖精さん」と名付けました。でも、働く人生はまだ続きます。ベテラン勢の能力を生かし、不公平感を改めていくには。手立てを探ります。

仕事を任せていないだけ

 中高年(シニア)に活躍してもらう現場のコツについて、リクルート、ローソン、永谷園で営業や新規事業開発の管理職を歴任した大隅聖子さん(53)=「チェンジウェーブ」顧問=に聞きました。

 自分がいた部署にはよく、定年後再雇用したものの生かし切れていない人材を人事が「お願いします」と送り込んできました。でも、働かない「妖精さん」、それほどいません。単に仕事を与えられていないだけです。

 コツは「分けて、任せる」です。まず任せる仕事をしっかり切り出すこと。「このお客さんを担当してね」「この商品企画を最後までやってね」と1人に任せてしまいます。新人や中堅社員のように暴走する心配もなく、マネジメントは楽です。

 一方、例えば5人のチームにシニアを1人交ぜるのは難しい。リーダーが気を使ってしまい、負担になるからです。シニアの側はみんな「気を使わないで」と言いますが、本気でそう思っている人とポーズだけの人がいます。

 再雇用されたシニアで人気があるのは、自分で手足を動かせる人です。部長級以上の管理職を長くやって各論を忘れてしまった人は、昔の肩書で生きようとすると、「妖精さん」になってしまいがちです。

 シニアの幸せな働き方は、自分が培ってきたスキルを生かせること。でも、ずっと同じ組織にいれば、かつての部下や後輩から気を使われてしまうのは避けられない。むしろ思い切って別の会社に移って力を発揮した方がカッコイイと思います。(編集委員・浜田陽太郎)

拡大する写真・図版大隅聖子さん

上から処遇を押しつけない

 中高年層をうまく活用できる企業とできない企業の違いはどこにあるのでしょうか。千葉経済大の藤波美帆准教授(経営学)に聞きました。

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 この問題のポイントは「中高年層も戦力」という認識を会社全体で共有できているかどうかです。最前線でばりばりやるだけが戦力ではありません。会社には様々な仕事があって、どれも重要なはず。高齢者が高い士気で仕事に取り組めていれば、生産性や業績にプラスの効果があるという調査結果も出ています。

 よく人事担当者が困るのは、会社の方針があいまいなまま「良いポジションを用意してあげて」と、上からシニアの処遇を押しつけられるケースです。人事は公平さが大事なのに個別対応を求められても、そんなポジションはありません。

 シニア活用がうまい企業は、経営トップが本気です。社長や人事担当役員が人事担当者だけでなく全社に向けて「戦力だ」と繰り返し訴えているのです。それがないまま、現場レベルでいくら戦力だと持ち上げられても、「どうせ会社から期待されていないから、いいや」となりがちです。トップの明確で強い意思が、現場の後ろ盾になるのです。

 企業は65歳までの希望者全員を雇う法的義務を負っています。定年の廃止や延長という選択肢もありますが、多くはいちど定年退職してもらってから非正規職員として再雇用するため、賃金が下がります。

 仕事や役割が変わらないのに、賃金が下がるのは「同一労働同一賃金」の点で問題ですが、仕事や役割が変わって下がるのであれば、きちんと説明することです。これが意外となされていません。しっかり制度を整えていても、定年前の説明会でこんな感じですと1回説明して終わり。それではよくわかりません。

 会社によっては、40代の頃から、50、60代に向けたキャリア形成を課題として示し、報酬の説明を何度もしています。早めに説明されて嫌だと思えば、本人も会社を辞めてほかに移る準備ができる。報酬が下がることによるトラブルは起きにくくなります。

 働き手の士気を左右するのは金銭的な報酬だけではありません。あなたにはこういうことをして欲しいという期待や役割を会社がきちんと示せていれば、やろうという気持ちにつながるはずです。

 再雇用後も評価に応じて報酬が変わるしくみを整えるのも効果的です。そうした企業では再雇用後のシニアの士気が一時的に落ちても、また高まるという調査結果があります。

 「妖精さん」の問題は、若手社員と中高年社員のコミュニケーション不足が大きいと思いますが、板挟みになる管理職への支援も欠かせません。年上の部下に対するマネジメントはトレーニングを積まないと難しい。さらに評価のしくみがあれば、管理職と当事者がコミュニケーションを取る手段になり、人事担当者も介入できる。そこで意思疎通できれば、コミュニケーションの問題は全部といわないまでも、半分ぐらいはクリアできると思います。(志村亮)

拡大する写真・図版千葉経済大の藤波美帆准教授

賃金下げず 士気もキープ

 65歳までの雇用は企業の義務ですが、多くはいったん退職後に再雇用しています。定年を65歳まで延ばし、大幅な賃金減額もしない企業は少数派です。総人件費が急に膨らんだり、高齢社員優遇と受け止める他の世代の反発で労使関係がもめたりするのを避けたい事情があります。

 太陽生命保険は2017年春、総合職・一般職などの社員約2400人の定年を60歳から65歳へ延ばしました。それまで60歳の定年後は再雇用し、処遇も定年前の4割程度にしていましたが、変えないようにしました。

 一番ケ瀬(いちばがせ)智彦・人事課長によると、「人件費はコストではなく投資」という当時の社長の方針のもとで、初任給の引き上げ、第3子以降の子ども手当新設、単身赴任手当の拡充といった若い世代を意識した施策も定年延長と同時に実施。一方で、57歳だった「役職定年」を廃止し、年齢を問わず実力次第で管理職につく環境づくりも進めました。

 労働組合との交渉は「経営トップの姿勢が明確だったので、円滑に進んだ」といいます。対象となる60代社員も現在は70人程度で、新卒採用を抑制するほどの人件費増にはなっていないそうです。

 ファミリーレストランを展開するすかいらーくホールディングス(HD)は、15年に正社員の定年を65歳に延ばし、60歳を超えても賃金や昇給の仕組みが変わらないようにしました。同社とグループ会社1社の正社員約4500人などが対象です。

 定年後の再雇用制度の見直しを議論していた際、社長が定年延長を提案。「社長自身も60代。60歳を境に思考力や体力がすぐに落ちるわけではないと実感していた」(人財企画・運用グループの匂坂(さぎさか)仁ディレクター)といいます。既に、仕事の規模や難易度などで賃金を決める職務給制度を本格的に導入済みで、年齢の上下は関係無く登用する土台が整っていたのも大きかったそうです。

 すかいらーくHDは19年、アルバイトやパートが働く上限を70歳から75歳に延ばしました。人手不足が深刻な外食業界で「高齢の従業員が活躍し、採用求人費の抑制効果も出ている」(匂坂氏)といいます。(滝沢卓)

今もフルスイング/一日中、魚を観察する部長

 メールとデジタルアンケートに寄せられた声を紹介します。

拡大する写真・図版フォーラムアンケート

●若手不在で業務負担減りません

 精密機器メーカーで働く57歳です。妖精さん? いったいどこの業界でしょうか? うちの業界はバブル崩壊、リーマン・ショック後、数年にわたって新人採用を大幅に減らしたため、いまだに若いころ同様フルスイングで働いています。30、40代の社員が不足し、定年ぎりぎりまで海外拠点への長期出張を繰り返しており、まだまだ会社の土台を支えている自負があります。一方、若手を現場で育成しようとしても、これはという人材は企画・戦略などという名の「間接部門」に取られて、一からやり直しです。採用を景気変動のバッファーにし、人材の育成をおろそかにしてきた結果、実務は我々50代や雇用延長者のスキルに依存せざるを得ない現状です。同じ50代でも企業によって実態は大きく異なります。「妖精さん」というレッテルが独り歩きして、50代は働かないとか、給料泥棒という悪いイメージを持たれることのないよう、ご高配いただきたいと考えます。(愛知県・50代男性)

●社長クラスが言わないと

 窓の外が海で一日中窓を眺めて過ごし「今日はあまり魚が跳ねなかったなァ」と、魚が跳ねた回数をグラフにしている部長がいました。仕事を持って行くと「俺に仕事を持ってくるな!」と怒鳴られた。それで、高給取りなんだから納得いきませんでした。仕事の割り振りをきちんとやって、偏りがないようにしないと、しっかり働いている人間のモチベーションが下がります。部下が目上に言いづらい環境なので、社長クラスが言わないと、こういった「妖精さん」が出てくるんだと思います。特に男性の「妖精さん」が多いです。指摘しようものなら、大声を出して威嚇すれば相手が黙る、と勘違いしている男性たちです。(神奈川県・50代女性)

●会社や社会の欠陥では

 正直働かない中高年には限りませんが、会社で離職者が多かったり精神や身体に支障をきたして辞めたりする人が一定数いるようであれば、会社の風土やシステムがおかしいのだということに経営者や管理職が気づかなければならないと思う。経営者の人たちが新人の頃とは明らかに時代が変わり、若者だけでなくて今の中高年の考え方も変わってきているはずなのだから。人手不足の今、働き口はあるにもかかわらず働けないという人がいるのは社会に何か欠陥があるのではないかと思う。(東京都・20代女性)

●「妖精さん」パパに感謝

 メディアに勤務する夫。管理職を終えて、しばらく暇な時期が続きました。マイナーな現場でそんなに露出する記事は書けません。まさしく「妖精さんライフ」。やめたいとぼやきつつ、「まだローンも子どもの学費もある」と自分を立て直す繰り返しでした。「給料分働いていない」という後ろめたさもあったと思います。

 ところが、夫が担当していた分野で世間の耳目を集める出来事が。苦労して取材し、毎日楽しそうでした。でも会社は残酷です。日が当たった途端、若い記者と交代。閑職に移された妖精さんはうつになりました。それでも仕事を続け、なんとか定年に。再雇用で給料は半分以下と家計は苦しくなりましたが、笑顔が戻りました。「あくせく働かなくてもよい」という気楽さが心の平穏をもたらしました。妖精さん、カッコ悪いですか? でも、子どもたちは妖精パパに心から感謝しています。妖精さんが育てた子どもたちが未来を支えます。妖精さんの家庭人としての側面にもスポットを。妖精さん批判は理解できますが、企業の努力も足りないと思います。(東京都・50代女性)

●会社は育成にも目を向けて

 世代の話は大きすぎて好みませんが25年前ごろから「PCを利用した業務で生産性を向上する、ついてこられなければこれからは仕事をなくす」といわれた世代の残りが「妖精さん」と見えます。あてはめるとAIなど未踏の技術が取りざたされ生産性向上が叫ばれる現在、数十年後の「妖精さん」と彼らに対する「若手」の不平不満が再生産されるのも想像できます。雇用慣行がすぐに変わるわけもなく、それでも収益を上げていくために会社の責任の一つとして育成にもう少し視線を向け試行錯誤するのも必要かと。(東京都・40代男性)

人口減「分断」してる場合じゃない

 アンケートや投稿を読むと、日本社会の三つの「分断」が浮かんできます。

 最初はもちろん、世代間ギャップです。年功序列が崩れかけているなか、若い世代から見れば「働かない中高年」は非効率と不公平以外の何ものでもないでしょう。

 次に、非正規と正規雇用の分断があります。〈正社員は楽してばかり〉〈給料は5倍以上〉という声も寄せられました。そして、多くが終身雇用から遠ざけられてきた女性たちも割り切れなさを感じています。

 この「妖精さん」問題が浮上したのは、少子高齢化と人口減少を背景に、日本社会が地盤変動を起こしているからです。成長力の鈍化を前に、日本型雇用システムの負の側面が目立ち始めています。

 これから、現役世代が坂道を転げ落ちるように減っていきます。世代や性別による機会の不平等を放置していては、すべての人が持てる力を十全に発揮できる社会は訪れません。中高年男性の経験と能力を生かせないのも、たいへんな損失です。

 日本経済全体の競争力と、個人の働きがいや職務に応じた公平な処遇を両立するにはどうしたらいいか。

 それには、人口減少という危機が逆にチャンスになるのではないでしょうか。人手不足で売り手市場なら、1回目(19日)の識者提案のように「ジョブ型正社員」を導入して転職市場を活性化させるハードルは下がります。

 働く側の立場が強ければ、賃金や待遇を切り下げられる恐れも減るでしょう。企業の側も、非正規労働者を使い捨てにする一方で、働かない正社員を座視していては、優秀な人材が集まらずに立ちゆかなくなる。

 一つの会社に人生を頼り切らず、拘束もされない。不安定雇用におびえることもない。誰もが、そんな働き方ができる社会が目標です。

 当事者も周囲も「モヤモヤ」を放置していたら、「妖精さん問題」は解決しません。自分はどんな働き方を望むのか、みんなで声を上げていきたい、と50代の当事者世代の一人として思います。

 「老後レス時代」を前に、中高年も足踏みしてはいられません。(編集委員・真鍋弘樹

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