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 乳がんは、早期に発見し治療すれば治せるがんと言われています。しかし、がんのタイプによっては早期発見が難しいものや治すことが難しいものもあります。「治せない乳がんをどうするのか」をテーマに、医療に限らず幅広い視点から支援を考える国際的なシンポジウムがあります。「ABC」と呼ばれているシンポの概要について2回に分けて報告します。

拡大する写真・図版昨年11月にポルトガルのリスボンで開催された「ABC5」のメイン会場。筆者も参加しました。

ABCって?

 「ABC」は、「Advanced Breast Cancer」の頭文字をとった略称で、「転移性・進行性の乳がん」を意味しています。この「Advanced」の意味は、乳房内での再発や進行ではなく、乳房から他の部位へがん細胞が広がった状態のことを言い、病気の進行の度合いを示す病期としてはステージ4のことを言います。今の医学では治すことが難しいとされており、生活の質を維持するための治療や痛みをとるための治療、心やお金、就労など、家族を含めた様々な方面からの支援が大切になります。

 乳がんでは、治療から10年以上経過してから転移する、いわゆる「晩期再発・転移」も起こります。そのため、いつまでも「治った」気持ちになれない患者さんもいます。私などもそうした「治った気がしない患者」のひとりです。

 乳がんは、ほかのがんと比べて「治りやすいがん」というイメージが強いため、転移性乳がんの悩みを語ることが少ない、言い出しにくいのが現状です。また、「治し方がないがん」に対しては、患者さんの価値観や大切にしたいことなどを考慮しながら治療を考えていく必要があるので、定まった治療の流れをまとめづらいのも現状です。

 こうした状況を、「目の前に大きな問題があるのに、見て見ぬふりをしているのではないか?」、「治療の違いがあまりにも大きく、転移性乳がんの治療ガイドラインを国際的に考えていくことも必要なのでは?」と、ポルトガル・リスボン在住の乳腺医師であるカルドソ先生が働きかけ、2005年に欧州に拠点がある医療者などの教育的機関(European School of Oncology)の中で検討する部会が立ち上がったのが始まりです。

 その活動がだんだんと大きくなり、2011年11月3~5日に世界64か国から約800人の医療関係者が参加をし、「ABC1」が開催されました。以降、隔年開催として、2013年の第2回ABC2が約1000人(79カ国)、2015年のABC3が約1200人(84か国)、2017年のABC4が約1300人(89か国)人、2019年のABC5が約1500人(94カ国)が参加と、その輪が広がりつつあります。毎回ポルトガルのリスボンで開催されています。

 私が初めて参加をしたのが2015年のABC3。患者の声が組み入れられたリアルな議論、死をタブー視しないセッションの内容に感動。移動時間も渡航費などもかかりますが、身体が許す限り、できるだけ参加しようと決めた学会です。欧州開催ですから参加者はアフリカ大陸の方なども多く、医療へのアクセス性や経済格差なども実感でき、国際的な視野も広げることができます。

患者のリアルな声を

拡大する写真・図版ABC5の会場入り口。

 シンポジウムは、毎朝8時半から夜の19時半まで、90分を1単位としたセッションが30分の休憩を組み合わせながら3日間続きます。たいていセッションが長引いてしまうので、休憩は15分程度で終わることもしばしば。座りっぱなしなのでお尻が本当に痛くなります。

 最終日、3日目の午前中には、転移性乳がんのガイドライン作成に向けた議論と投票が行われます。議論するテーマは、治療から副作用などに対応した支持医療、緩和ケアや生活習慣に関わることまで30~40項目ほど。アメリカ、欧州、アフリカ大陸、アジア、オセアニアなど43人のパネリストが登壇をして議論をします。登壇者のうち4人は患者代表、全体に占める女性の登壇は24人と半分以上。日本の医学系学会の登壇者は男性がとても多いので、これも珍しい風景です。テーマが大変幅広いので、半日で議論は終わりません。ただし、重要なテーマについては、時間をかけて議論をします。なお、結果は「Breast」という学会誌に後日発表されます。

 オープニングセッションの冒頭には必ず30分程度、患者が語る時間が用意されています。様々な思いを受け継いで今を生き、そして、ここに集っているということを再確認する大切な時間になっています。

コミュニケーションの大切さ

 患者向けのセッションでは、代替補完医療や皮膚転移、コミュニケーションや意思決定の在り方について議論されました。いま、がん治療はゲノム解析なども登場し、とても複雑になっています。医療者に全てを任せるのではなく、患者も自分の専門家として、医療に参加をすることが大切になっています。今年のセッションでは、コミュニケーションをテーマにしたものが多く、また、会話の中でもたびたび議論になりました。

 3日目、アメリカで転移性乳がん患者さんの支援活動をしているシェリー(Shirley A. Mertz)さんから、大切なメッセージが届けられました。シェリーさんと私は、2009年のNBCC(全米乳がん連合)によるリサーチ・アドボケート教育セミナーを受けた同期生。当時から彼女は転移性乳がんの患者会を立ち上げたいと言っていました。

 私の耳で聞いたものですので、100%正確なものではありませんし、全てを書き留められたものでもありません。でも、ゲノム医療や新しいお薬の登場など、いまのがん医療はとても複雑化をしてきています。その流れの中で、患者がどのように行動すべきなのかを述べています。とても大切なメッセ―ジですので、概略ではありますが、以下に掲載します。

    ◇    ◇    

<シェリーさんのスピーチ(翻訳メモ)>

 私たちの団体でも、ステージ4の仲間がたくさんいます。ABC3から参加をしてきて、今年は、団体として日本でのABCプロジェクトを展開していく予定です。インターネットを活用したミニ勉強会や相談支援などを行う予定ですので、ご興味のある方はお問合せください。伝えたいことは「一人ではありません、仲間がいます」ということです。

 これからのがん医療は、治療から患者が選ばれていく世界がやってきます。多忙な医師任せにしていてはうまくいかなくて、患者もよりよいコミュニケーションのために努力をする必要があります。それは自分のためでもあります。

 ほとんどの患者はサイエンスの背景がなくクリニックを受診しています。

 なぜ?なぜその治療を推奨したの? どんな効果と毒性があるの? どんな意味が私にあるの? 患者はそれを知りたいのです。患者と医療者は一緒に治療を考えていくチームです。その意思表示が互いに大切です。

 医療者がとても忙しいのはわかっています。きちんとノックをして部屋へ入ってくる先生もいれば、検査結果やメモを片手にもって乱暴にわたしの部屋へ入ってくる人もいます。なぜこんなに違うのでしょうか?

 ここに集う医療者によく考えて欲しいのです。患者がどんなに不安な気持ちで、あなたの一声を待っているのかを。粗雑な態度で接せられたときの患者の気持ちを想像して欲しいのです。

 あなた方が忙しいのは十分に分かっています。でも、私たちは、きちんと患者に向き合って欲しいのです。誠実に向き合って欲しいのです。

 ほんの数分でいいのです、患者の声をきいてください。身体に何が起きているのかを聞き、何故おきているのかを、私たちは知りたいのです。

 診察室では、なるべく医療用語は少なくして、分かり易い言葉を使ってください。もし、あなたが家族の立場だったら、そう思いますよね?もっと分かり易く説明をして欲しいと。

 医師と看護師でもみるポイントは違います。それぞれの経験量が大切です。

 患者は、家族とのコミュニケーションが意外に下手です。患者と家族で意見が分かれることもあります。でも、それを<オカシイ>と思わないでください。患者の気持ちは絶え間なく変化します。

 私たちのPatient Journeyを一緒に歩んでください。一人の人間同士として。巡り合った仲間として。

拡大する写真・図版私が好きなポルトガルのエッグタルト「ナタ」

次回は、途上国でのABCをめぐる活動について、ご報告します。

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

桜井なおみ

桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。