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 あなたに知っておいてほしい、性とカラダの話をつづるコラムです。前回は、つらい月経痛(生理痛)は我慢をせずに受診してほしいというお話をしました。今回は、こうした症状を緩和してくれる低用量ピルの使い方について解説します。

 おさらいになりますが、ピルというのは、しばしば避妊に用いられる薬である一方、月経痛を軽くするなどのメリットもあります。月経の時につらい症状を伴う「月経困難症」の治療薬として使う場合は保険適用で、LEP製剤と呼ばれます(ここではわかりやすいように「ピル」で統一します)。成分は同様ですので、避妊効果が約束されるのは当然です。

 ピルは、エストロゲンとプロゲステロンという本来は卵巣から分泌されているホルモンと同様のものを含んだ薬です。「妊娠中はどうして排卵が起こらないのか」という疑問からその開発が進められてきた歴史があります。

 ピルをのむと、血液中のこのふたつのホルモン濃度が高まり、体が妊娠していると脳が錯覚することで排卵が止まります。さらにはホルモンの働きで子宮内膜の増殖も抑えられ、月経痛が軽くなる効果も期待できるのです。

 ピルは、医療機関を受診して処方してもらう必要があります。費用は、避妊目的のピルは自由診療で、月3千円前後。月経困難症の治療目的で使う場合は保険適用で、自己負担額はもう少し安くなります。

月経が毎月来なくても大丈夫?

 ピルの服用の仕方を説明しますと、基本的に毎日錠剤を1錠、決まった時間にのみ続けます。薬の成分が入っている錠剤をのんでいる期間は月経が起きません。避妊用として用いられる場合には、28日の周期で月経を起こす方法が一般的です。

 保険適用の薬では、周期的に月経が来るようにする方法のほかに、最長で120日続けてピルを服用した後に月経を起こすフレキシブル投与法などもあります。

 また、国内で承認されていませんが、月経は起こしたいときに起こせばいいとばかりに365日休みなく薬をのみ続ける連続投与法などもあります。周期投与法に比べて連続投与法の方が、「生理用品の必要な日数」「おなかに張りを感じる日数」「月経痛のある日数」が短くなることから、世界では連続投与法が高く評価されています。

 ピルをのむと血の塊(血栓)ができやすいことがしばしば話題になりますが、連続投与法と周期投与法との間での差はないとされています。とはいえ、服用中に激しい頭痛や胸が苦しい、太ももの左右差が目立つなどの症状に気付いたら、遠慮せずにかかりつけ医に相談してください。

 このようにピルを上手に使うことによって、月経の回数を減らすこと、月経周期を調節することなどは自由自在。まさに、「月経を支配する女性」になれるのです。

月経は健康の証し?デトックス?

 ところで、「月経」という言葉からしても、毎月繰り返されることが健康の証しだと考えている女性は少なくありません。

 古くは医聖と呼ばれるヒポクラテス(紀元前460年~375年ごろ)が、「月経とは、健康のために体内の有害物質を排出する現象である」という言葉を残していることが、「月経にはデトックス作用がある」との誤解を招いている可能性を否定できません。

 「月経」といえば、ナチス・ドイツから逃れ隠れていた間にユダヤ人少女アンネ・フランク(1929年~45年)が架空の友人に宛てて書いたという日記「アンネの日記」が今もなお読まれ続けています。

 そこには、「メンス(月経のこと)があるたびに・・・といっても、まだ3回あったきりですが・・・面倒くさいし、不愉快だし、うっとうしいにもかかわらず、甘美な秘密をもっているような気がします。ある意味でやっかいなことでしかないのに、そのつどその内なる秘密がふたたび味わえるのを待ち望むというのも、たぶんそのためにほかなりません」とあります。「面倒くさいし、うっとうしいが、甘美な秘密」という表現には、月経はとても大切なことだという意味合いを感じさせます。

 その一方で、最近、インターネット検索をしていると、「生理中の少女を隔離、屋外の小屋で蛇にかまれ死亡 ネパール」という記事を見つけ驚かされました。

 これによれば、ネパールの一部地域では、月経中の女性を不浄な存在だとみなすヒンドゥー教の古い慣習が残っていて、地方によっては、月経が終わるまで小屋での寝泊まりを強いることもあるとしています。その結果、屋外の小屋で過ごしていた18歳少女が毒蛇にかまれて死亡したというのです。(https://www.afpbb.com/articles/-/3258498別ウインドウで開きます)甘美どころか、不浄なモノとして月経が扱われることもあるのです。

「月経がある=健康」ではない

 ある製薬企業が2010年8月に、20~40歳代の女性930人を対象に実施した「月経に関する意識調査」を見てみましょう。

 「あなたにとって月経とは?」と聞くと、75.2%が「面倒くさいもの」、54.3%が「憂鬱(ゆううつ)なもの」、27.4%が「つらいもの」と回答しており、「女性であることを実感するもの」(21.1%)、「健康のバロメーターとなるもの」(20.5%)などに比べて、圧倒的にネガティブに捉えていることがわかります。

 月経が毎月順調に来るということは、妊娠・出産・授乳をしていない、仮に性交があるとしたらピルなど確実な避妊がなされていることを意味しています。月経が来ることが「健康であることの証し」とは言えないのです。

 もちろん、ストレスや体重減少などのために月経が止まってしまうのは、卵巣の機能が正常に働いていないことを意味し放っておくわけにはいきませんが、ピルを服用することで月経が来るのを止める、早める、遅らせることに健康上の問題はまったくありません。(アピタル・北村邦夫)

アピタル・北村邦夫

アピタル・北村邦夫(きたむら・くにお)

1951年生まれ。産婦人科医。自治医科大学医学部一期卒。リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の向上などをめざす一般社団法人・日本家族計画協会理事長。同協会市谷クリニック所長。(http://www.jfpa-clinic.org/) 予定外の妊娠の回避や、性感染症予防の啓発に力を入れている。著書に「ピル」(集英社新書)、「ティーンズ・ボディーブック(新装改訂版)」(中央公論新社)など。