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 子どもが朝起きてから学校や幼稚園に行くまでの準備を自分でできると、親にとっても子ども自身にとってもいいですね。前回までにリョウさんは、幼稚園に行く娘がなるべく自主的に時間を意識しながら準備に取り組める仕組みを作ってきました。

 ホワイトボードを使ったり、時間管理アプリを使ったりしてきたのですね。

 そのかいあって、あれだけマイペースなリョウさんの娘にも多少「朝は時間を見ながら準備しなくちゃいけないんだな」という意識が芽生えてきました。

 とはいえ、そこは子どもです。そうした意識がありながらも、ついつい着替えながら面白い遊びを思いついてそちらに脱線してしまったり、昨日のテレビの話を始めて夢中になってしまったりと、大人のようにスムーズには朝準備が進みませんでした。

 リョウさんは粘り強く、脱線を防いできました。

 最も功を奏したのは、娘の着替えるスペースには一切おもちゃをおかないことでした。着替える最中におもちゃに気を取られてしまうと娘は何十分間でも時間を忘れて遊んでしまうからです。

 リョウさんは娘さんの翌日の着替えを枕元に置いておくことにしました。これなら目覚めて寝ぼけた状態でも、他の誘惑なく着替えに取り組めます。

 最も苦労したのは朝ごはんの時間でした。

 前回ご紹介したように、リョウさんはそれぞれのタスクごとに時間をタイマーでお知らせしてくれるアプリ「ルーチンタイマー」を使っています。「今から○分間、○○をしてください」とスマホから知らせてくれるのでしたね。

 リョウさんは無理なく目指せる目標として、実測に基づいて朝ごはんを35分間と見積もり、タイマーをセットしていました。

 しかし、この「朝ごはん」の項目だけは、いつもタイムオーバーしていたのです。

拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

 リョウさんは思いました。

 リョウ「あーあ、しょせん、アプリにも限界があるんだろうか。結局私が朝からガミガミ言わないといけないんだ」

ガミガミだけでは自主性は育めない

 こういうときには深呼吸して別の視点から考えてみることです。感情にまかせてガミガミを繰り返していては、いつまでも子どもに「自分で時間を管理するんだ」という意識が芽生えません。「親に管理されてるんだ。うっとうしい」となるだけで、親もへとへとで嫌な気持ちになりますし、子どもの自主性も育めませんし、関係も悪くなります。

 その代わりにリョウさんはこう考えました。

 リョウ「方法に工夫が必要なのかもしれない。まずは、どのようにしてうまくいっていないのか、調査しよう。そこにヒントがあるはずだ」

 リョウさん、冷静になれましたね。

 さっそく、リョウさんは観察しました。

 娘は、ルーチンタイマーでトイレや着替えを済ませることはできています。朝ごはんさえ終われば、歯磨きだってルーチンタイマーどおりにできるのです。

 どうして朝ごはんの時だけ失敗するのでしょうか。何が他の項目と違うのでしょうか。

 大きな違いは「時間の長さ」でした。トイレは1分、着替えは5分で見積もられていました。しかし、朝ごはんだけは35分間と、長かったのです。

 小学校に上がる前のお子さんにとっての35分間は、長いのです。小学生になっても45分間授業です。

 「朝ごはんだけやたら長い」。これが敗因かもしれません。

 このように見当づけてから、リョウさんは朝ごはんの時の娘を観察しました。

 娘は、朝ごはんの時、席について食べ始めるわけですが、リョウさんに大好きなテレビ番組の話をしたり、リョウさんと夫の会話に入ってきたりして、そのようなときには完全に箸をおいて、身ぶり手ぶりで話しています。

 小学校に上がる前の子どもにとって、同時にふたつの作業をこなすのは非常に難しいといわれています。この場合、食べながら話をすることです。リョウさんの娘は、食事中の両親との会話が楽しくてしょうがないのです。

 そう思うと、なんてかわいい理由で遅くなっていることでしょう。

 とはいえ、遅刻しては困るわけです。食事は会話を楽しみながらゆっくり、と言いたいところですが、正直朝には話が別です。

時間のかかる作業は分割して考えよう

 さて、この長過ぎる35分間の朝ごはんの様子を見てみると、「途中で時間経過を知らせる」ことが必要そうです。

 アプリにもその機能はあり、「残り10分です」などと時々お知らせはしてくれます。大人ですとこれはお役立ちの機能なのですが、小学生にはもう少し「残り10分」ってどのくらいの体感なのか、もっといえば「残り10分だからごはんをこのあたりまで食べ終わっていないと間に合わないんだ」というお知らせがあるとよさそうです。

 そこで、「朝ごはん」の項目を分解してみるのはどうでしょうか。朝ごはんの定番メニューが、ごはん、みそ汁、納豆、おかずという場合には、最初に「米」それから「みそ汁」……それから10分ごとに「今、みそ汁半分ぐらいになった?」とか、「あと3口でいける? 間に合わなさそうならママに相談」とか、その時間帯で食べ終えるベき量が食べられているか本人がチェックできるようなお知らせを設定するのです。

拡大する写真・図版時間管理アプリ「ルーチンタイマー」の画面

 まじめに項目を入力すると、単調でつまらないものになりますから、子どもと一緒におもしろがって入れていきましょう。

 リョウさんの娘も、ルーチンタイマーから次々に出てくる面白いお知らせに笑いながらゲーム感覚で朝ごはんをこなすことができました。

 今日のポイントはこれです。

 「あれ?うまくいかないな?」というときには、「時間が長過ぎるのではないか?」「単位が大き過ぎるのではないか?」と考えて時間を区切ってみましょう。

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

生きるのがつらい女性のADHD
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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。