【動画】2年前の「義理チョコやめよう」広告、ゴディバの真意は=長谷川健撮影
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皆さんの身近な困りごとや疑問をSNSで募集中。「#N4U」取材班が深掘りします。

 2月14日はバレンタインデー。街には色とりどりのチョコレートが並び、わくわくする人もいる一方で、義理チョコをどうするか悩む人は多い。2年前、日本の義理チョコ文化に、海外の高級チョコレートブランドが疑問を呈した。いったいなぜ? その真意を聞くため、「#ニュース4U」取材班が社長を訪ねた。

拡大する写真・図版ゴディバのバレンタイン限定チョコレートと人気チョコレートとの詰め合わせ

「よく言った」「余計なお世話」

 《日本は、義理チョコをやめよう》

 2018年2月1日、そう呼びかける新聞広告が日本経済新聞に掲載された。発信したのは、ベルギーの高級チョコレート「ゴディバ」を日本で展開する「ゴディバ ジャパン」(東京)だ。広告はこう続く。

拡大する写真・図版2018年2月1日の日本経済新聞に掲載されたゴディバ ジャパンの広告=同社提供

 《バレンタインデーは嫌いだ、という女性がいます》《義理チョコを誰にあげるかを考えたり、準備をしたりするのがあまりにもタイヘンだから、というのです》《そもそもバレンタインは、純粋に気持ちを伝える日。社内の人間関係を調整する日ではない》

 チョコレートブランドにとって義理チョコも重要なはず。大胆な広告は話題となり、「よく言ってくれた」「余計なお世話」などと賛否両論様々な意見が世間をにぎわせた。

「義務チョコ」になってない?

 あれから2年。「我々の広告がきっかけで会話が生まれた。社会的に良かったと思っています」

 そう話すのは、同社のジェローム・シュシャン社長(58)だ。

拡大する写真・図版ゴディバ ジャパンのジェローム・シュシャン社長=東京都港区

 メッセージにどんな思いを込めたのか。

 「元々日本は贈り物で相手に尊敬や感謝の気持ちを表してきた文化があり、『義理』という言葉にも深い意味がある。でも最近の義理チョコは良い意味の日本らしさが消え『must do(やらなくちゃいけない)』『duty(義務)』になっているのではないか」とシュシャン社長。「ギフトをやめようではなく、ギフト本来の意味を考えてほしくて問題提起したのです」

 一方、ゴディバの広告掲載後、ある会社のツイートが注目された。

拡大する写真・図版東京メトロの新宿駅地下通路に設置されたブラックサンダーのキャンペーン広告=2013年、東京都新宿区

 「一目で義理とわかるチョコ」とPRするチョコレート菓子「ブラックサンダー」を看板商品に据える有楽製菓(東京)だ。

 《とある広告が話題のようですね よそはよそ、うちはうち。みんなちがって、みんないい。ということで有楽製菓は引き続き「日頃の感謝を伝えるきっかけ」として義理チョコ文化を応援いたします》

 ツイートには「応援してます!」などの書き込みが相次ぎ、一気に拡散された。面白おかしく「ゴディバ対ブラックサンダー」の構図で、一連の流れを紹介するメディアもあった。

「義理チョコ文化応援」ブラックサンダーの本音

拡大する写真・図版ゴディバの新聞広告を念頭に「よそはよそ、うちうち。」とつぶやいたブラックサンダーの公式ツイッター

 「ケンカするつもりは全然なかったんですよ」

 有楽製菓の河合辰信社長(37)は、当時をそう振り返る。ちょうど広告が出た頃に3代目社長に就任。「感謝や愛情を伝える文化を応援する企業でありたい」。10年4月の入社以来、そんな思いを深めていた。そんな時、ゴディバの広告が話題となった。

 日頃伝えにくい感謝の気持ちを込めた義理チョコはみんなを幸せにしてくれる、と考えているという。

拡大する写真・図版有楽製菓の河合辰信社長=2020年1月29日、東京都小平市、長谷川健撮影

 「大事なのは義理か本命かではなく、どんな思いがあるか。思いがないのに渡すことを強いるのはやめよう、という考えではゴディバさんもうちも同じ。むしろゴディバさんと同じ方向を向いているとわかってうれしかった」

「チョコ贈ろう」モロゾフから始まった

拡大する写真・図版バレンタインデーが近づくと、百貨店やコンビニエンスストアなど、街のあちこちにいろんなチョコレートが並びます

    ◇

 バレンタインデーは、3世紀のローマに実在した司教、聖バレンタインの命日(2月14日)に由来するとする説が有力だ。

 ただ、起源は諸説ある。テンプル大学ジャパンキャンパスの堀口佐知子・上級准教授(文化人類学)によると、海外では恋人同士が花やカードを贈り合うなどして祝っているが、「義理チョコという文化は日本独特のもの」という。

拡大する写真・図版1932年にモロゾフが発行した商品カタログには「ヴアレンタインの 愛の贈物は ブーケダムール スヰートハート」と書かれている=モロゾフ提供

 では、バレンタインデーと義理チョコはどのように日本に根付いたのだろう。歴史をたどると、神戸市の洋菓子店「モロゾフ」にたどり着いた。

 1931年創業のモロゾフは、32年発行のカタログで「バレンタインデーにチョコレートを贈る」というスタイルを紹介した。当時の経営者が米国の知人から、海外での習慣を聞いて始めたという。

百貨店で初フェアは「大失敗」、商戦の歴史は?

 35年2月には英字新聞にバレンタインデー向けのチョコレート広告を掲載した。だが当時の日本でチョコレートはまだ高級品。バレンタインデーにチョコレートを買う習慣が根付くことはなかった。

 転機は58年。メリーチョコレートカムパニー(東京)の社員がバレンタインデー文化を知り、日本の百貨店で初めてバレンタインフェアを開いた。

 同社によると、初めてのフェアは「大失敗」だったという。「バレンタインセール」と手書きで書いた看板を掲げ、板チョコを並べた。売り上げは1枚50円の板チョコが3枚とカードが20円分。合計わずか170円だった。

拡大する写真・図版ゴディバのチョコの詰め合わせ=ゴディバ ジャパン提供

 「普通ならこんなに大コケした企画は、次の年はやりません」と広報宣伝部の小林香部長。「でも、やったんです。更にバージョンアップして」

 翌59年1月、前年のような板チョコではなくハート形のチョコを準備。店頭で客の名前と贈る相手の名前を彫るサービスを始めた。

 そしてこの年、初めて「女性から男性に愛の告白をする日」と提案した。「女性から告白するというのがまだ常識的ではない時代、当時の提案は画期的だったようです」

80年代「義理チョコ」始まり、「友チョコ」へ

 ちょうど世間では女性の社会進出が議論され始めた時期。マスコミに取り上げられ、徐々に他の菓子メーカーも追随。女性から男性にチョコレートを贈る、日本独自のバレンタインデーが根付いていった。

拡大する写真・図版バレンタインデーが近づくと、百貨店やコンビニエンスストアなど、街のあちこちにいろんなチョコレートが並びます

 テンプル大学ジャパンキャンパスの堀口さんによると、70年代には学生らもバレンタインデー市場のターゲットになった。

 そして80年代ごろから、働く女性が職場の同僚や上司に渡す「義理チョコ」が提唱され始めたとみられるという。義理チョコ文化の始まりだ。

 「日頃お世話になっている人に贈り物をする贈答文化がある日本には、職場での義理チョコを受け入れやすい土壌があったんです」と、堀口さんは言う。

 一方で90年代以降、「男性と対等な立場で働く女性の増加や、金銭的負担などを理由に義理チョコに疑問を抱く女性が増えてきた」と堀口さんは指摘する。

 そんな空気を察してか、メーカーなどは新たなマーケットを模索。その後、同性同士でチョコを交換する「友チョコ」が広まったとみられるという。

「気をつかう」時代変わった あなたはあげる?

拡大する写真・図版有楽製菓が2013年、東京・新宿駅で企画したイベントでは、ブラックサンダーや「義理チョコのお作法カード」などが手に入る販売機が登場した=東京都新宿区

 一般社団法人「日本記念日協会」によると、今年のバレンタインデーの推計市場規模は前年より約50億円多い約1310億円。昨年までは2年連続で縮小傾向にあったが、「令和初のバレンタイン」であることや、毎回五輪開催の年は市場が拡大することなどから、今年は増加に転じると推計している。

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 義理チョコを配る人は減っているのだろうか。

拡大する写真・図版何種類ものチョコレートが並ぶバレンタインデーの催し会場=2020年2月4日、大阪市北区の阪神梅田本店、長谷川健撮影

 「私の職場では5年以上前から義理チョコ、やっていません」。中国地方の大学に勤務する50代の男性が取材班に意見を寄せてくれた。「お互いに気を使うからやめよう、となったみたいです」

 この男性の職場では以前、女性がお金を集めて男性スタッフ1人ずつにチョコを準備。ホワイトデーには男性側もお金を集めて、女性スタッフ1人ずつにお返しを準備していたという。「若いスタッフが担当者になりやすい。みんな気を使っていた」

ドイツ人の彼「海外では本当に好きな人だけに」

 兵庫県の塾講師の男性(38)は、教え子の小学生からバレンタインデーにクッキーやチョコをもらうという。女の子だけでなく、男の子もくれる。「『あの家がしているからうちも』とお母さんが気を使っているのかもしれない。でも男女分け隔てなく渡すようになったんだな、時代は変わったんだなとも思う」

拡大する写真・図版ゴディバのチョコレート

 現在ドイツに住んでいる狩野涼香さん(23)は小学生の頃から、男女の友だちみんなに「友チョコ」を手作りして渡していた。

 「『もらったらみんなうれしいんだから』って母が積極的で」。だが、大学生になって出会ったドイツ人の彼から「海外では本当に好きな人だけにあげるんだよ」と言われた。以降、彼にしかチョコを渡していないという。

 昨年4月、大学卒業と同時に彼と過ごすためにドイツへ移った。語学学校でドイツ語を学ぶ毎日。そんな彼女を彼の祖父母はいつも気にかけてくれるという。

 「だから今年は久しぶりに義理チョコを彼のおじいちゃんとおばあちゃんに渡します。プレゼントってどんな小さなものでも、もらう方もあげる方も楽しいですよね」と狩野さん。

 「見返りを求めるとちょっと違う気がするけど、感謝の気持ちを伝えたい大切な人に、性別も年齢も関係なくお互い自由にプレゼントをする。バレンタインデーがそんなイベントになると良いなと思います」(山根久美子、長谷川健)

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