【科学力】
感染が各国に拡大している新型コロナウイルスは、中国・武漢市の市場で野生動物から人に感染し、人から人に感染するに至ったとみられている。治療薬やワクチンがなく、各国とも中国からの渡航禁止や感染者の隔離といった水際対策に力を入れている。しかし、ウイルスの性質としては、過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)などと比べて致死率は低く、感染力も特別高いわけではないとみられる。今回の事態の特徴をどうみればいいのか。ウイルス学が専門で感染症の歴史や新興感染症に詳しい山内一也・東京大学名誉教授に聞いた。
◇
――新型コロナウイルスの感染拡大の特徴をどうみますか。
人間の体内にいるウイルスは、元を探ればすべて動物から来ています。風邪の原因となっているコロナウイルスもウシから来たと言われています。歴史的にみれば、野生動物との接触によって、人に感染するウイルスは繰り返し出現してきたといえます。
今回の特徴はウイルスの側にあるというよりむしろ、私たちが暮らす社会構造の変化にあります。人口が密集し、人やモノが国境を越えて地球規模で移動するグローバル化が急激に進む中国で感染が起きたことが、爆発的な拡大への懸念を生み出したのです。現代社会の進展そのものが、かつてない新興感染症の広がりを起こす下地になっています。
――1970年代から断続的にエボラ出血熱が流行し、2002年から03年にはSARSが流行するなど、世界で新興感染症が繰り返し発生していますね。
アフリカのエボラ出血熱の流行は、致死率は高かったものの、奥地から都会への広がりが懸念された段階であり、感染はほぼアフリカ内に限られていました。SARSのときも、今ほどグローバル化は進んでいませんでした。
中国ではこれまでもいろいろな動物からのウイルス感染が起きていたはずですが、今ほど人が世界にどんどん出て動き回る時代ではなかったといえます。
――100年ほど前にも、インフルエンザの世界的な流行がありました。いわゆる「スペインかぜ」では5千万人以上が死亡しました。
1918年のスペインかぜは…