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 ADHDの主婦リョウさんが、もうすぐ小学校に入学する娘のために、時間内に身支度や朝食を済ませる練習をしている「子どもの時間管理」のお話を続けています。

 前回までに、リョウさんが、娘さんに時間の感覚を身につけさせたり、朝準備をスムーズにできるよう工夫したりする様子をお伝えしてきました。

 今回は、夕方の場面。リョウさんは、朝だけでなく夕方にも、ご飯の前に遊んだものを片付けたり、お風呂に入る準備をしたりといったことを自分でさせたいと思っていました。

 夕方と言えば、1日の終わりが近づき子どもも疲れている頃。大人だってそうですね。一般的に夕方4時ごろは何もすることがなければ、眠気がくるタイミングなのだそうです。

 リョウさんの娘も、夕方にはなかなか「時間を見ながらテキパキ動く」ということはできません。これまでご紹介してきたようなホワイトボードに10分刻みにやることを書く方法や時間管理アプリを使って頑張っていましたが、やがて

 娘「飽きたーーー。もう疲れたあ。やりたくない」とやる気をなくしてしまいました。

 リョウさんはがっかり。せっかく娘がてきぱきこなしてくれるようになっていたというのに。あっという間に放棄されてしまいました。つい、ガミガミと言いたくなってしまいます。

親心だったのに…

 対照的に、リョウさんの夫は、楽観的でした。

 夫「まだ小さいんだし、そんなにてきぱきなんてさせなくていいんだよ」

 リョウ「あの子には私みたいになって欲しくないのよ。いっつも親にガミガミ言われなきゃ動けない子に育ってもいいの?」

 夫「だって、おれらの子だよ? ガミガミ言われて、動くだけいいじゃん」

 リョウ「ガミガミ言う方の身にもなってよ!!」

 どこか他人事にも見える夫のお気楽発言に、リョウさんはイライラしています。

 リョウさんのイライラは夫にも伝染しました。

 夫「だいたいリョウが先回りして、アプリとかなんでもやってあげすぎなんだよ。あの子の人生なんだし、失敗だって経験になるじゃないか」

 この言葉にはリョウさんもハッとしました。

 たしかにリョウさんの中にも「最初からうまくさせたい」「できれば失敗させたくない」という思いがあったからです。でもそれは正しいやり方を最初から習慣化させたいという親心でもありました。

 リョウ「あの子なりにやる気を出して、取り組めるように工夫していたつもりなのにな」

 トーンダウンしたリョウさんに、夫も言いすぎたと改めました。

 夫「いや、リョウがやってることは正しいんだけど」

うまくいかない時はまず現状を直視しよう

 リョウさんと夫は考えてみました。夕方の疲れた子どもにとって、やるべきことを先にてきぱきこなしたら、どんないいことがあるんだろう。

 逆に、やらなかったらどうなるのでしょう。そしてそれには保護者はどこまで責任を負っているのでしょうか?

 「私の小さい頃はこんなことぐらい親に言われずにできていた」とか「世間ではこれこれが常識だろう」といった価値観には頼らない方がいいでしょう。

 自分の“常識だ”と思っていることは、娘の性格、発達段階、社会情勢とかけ離れた、非現実的な価値観である場合もあるのです。

 「この子は今こういう状態。それが現状なんだ」「親としての私は時々イライラしすぎてしまうんだ」といった現状を見ることが大切です。

 それらを否定するのではなく、「そうなんだ」と直視した上で、ここからできることを探ります。

 リョウさんは、娘に対して「飽きた、やりたくない」なんて言って欲しくありませんでした。ゆくゆくは、娘が自分自身で時計を気にしながら、やるべきことをこなしていって欲しいのです。だからこそ、今のうちに時間管理の術を身につけさせたかったのです。

拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

子どもに未来を想像させる

 こんなときこそ、素朴に、娘の視点に立って対話してみてもよいでしょう。

 リョウさんは娘に聞きました。

 リョウ「幼稚園行く時間に間に合うようにがんばってるじゃない? あれって、なんでやってると思う?」

 娘「ママがやってっていうからでしょう?」

 リョウ「そ、そっか…それだけ?」

 娘「うーん、あと、髪結んでもらえるとか、シールがたまっていったら、旅行行けるとか?」

 リョウ「そうだね。どうしてそんなご褒美がもらえると思う?」

 娘「わかんない」

 リョウ「そうかそうか。もうすぐ1年生になるから、ちゃんと話すね。小学生になったら、1時間目のお勉強が何時から、2時間目のお勉強は何時からって決まってるの。幼稚園もそう?」

 娘「へえー」

 リョウ「幼稚園は何時から始まるって知ってる?」

 娘「わかんない」

 リョウ「幼稚園だと、次はなになにで遊ぶよ、とか、次は昼ごはんだよとか教えてくれるでしょう? だから何時からって知らなくても大丈夫でしょう?」

 娘「うん」

 リョウ「小学生からは、何時から掃除、何時から勉強って覚えておいて、時計をみながら動かないといけないの」

 娘「えーー! もし忘れてたら?」

 リョウ「みんな運動場にいるのに、自分ひとりだけ次の授業の時間を忘れてて教室にいたら悲しいよね」

 娘「やだーー! どうしよう」

 こうして、リョウさんは娘さんに時間管理をなぜする必要があるのか、未来を想像させる手助けをしました。

 このやりとりだけですべてが丸く収まるほど甘くありませんが、まずは「時間を意識しよう」というスタートラインに立つためには、時間をかけて対話を重ねることをお勧めします。

 仮にこれで、娘さんが「そうか、もっと時計を見ながら動こう」という気持ちになったとしましょう。その上でも大変なのはやはり気乗りせずぐずぐずしがちな時間帯。次回は、まさにそのときに、どう対処すべきかというお話をします。

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/(アピタル・中島美鈴)

生きるのがつらい女性のADHD
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アピタル・中島美鈴

アピタル・中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。