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 世界的ピアニストのイーヴォ・ポゴレリッチが来日し、21年のブランクを経て昨年発表したCDへの思いを語った。「音楽家であるということは、練習と思索によって新たな扉を開き続けること」と語る名手はなぜ、次なる扉を開くのにここまでの時間を要したのか。

「橋を架ける」ようやく気づいた

 1996年、妻を看取(みと)った。自身の歩む道を定めてくれた名教師でもあった。喪失に沈む心が、独りになる時間を求めた。6年の休養を経て2005年に再来日するも、異様なまでに遅いテンポが聴衆を戸惑わせ、時に「病的」と揶揄(やゆ)された。

 前向きな光を感じとれたのが、18年末の東京公演だった。作曲家が語りかけてくる瞬間に心を研ぎ澄ませ、その声を聴き漏らすまいとする純粋さが導く天衣無縫なシューマン。ただ遅いというだけではない、長い葛藤の日々に培われたのであろう内的な時間軸が、この日くっきりと示された。

 「重要なのは速いか遅いかでは…

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