1月の凍えそうな夜9時、岩手県陸前高田市の中心部。
赤色灯をつけた消防車が1台、警報音を鳴らしながら巡回に出た。消防団の分団部長、菅野(かんの)秀一郎(44)に見送られ、熊谷幸(こう)(34)や清水健太(30)が乗り込む。
「行き止まりになってるぞ」「こんな所に道ができたんだ」。街の様子は日々変わる。ライトの先に見えるのは、「貸地」「売地」の看板だ。空き地が広がる中、道路灯だけがやけに明るい。
まだ新しい消防団の屯所には、避難誘導中に亡くなった6人の名札が、薄墨で書かれて掲げられている。市全体の犠牲者は約1800人。あの津波でまるごと流された街の跡に高さ10メートルの土を盛り、新しい市街地が築かれている。被災地最大の区画整理事業は、あと1年ほどで完成する。
だが、かさ上げされた民有地31ヘクタールのうち、7割余りには家や店が建つあてがない。3年前、復興の象徴でもある大型商業施設ができたが、周りには居酒屋や事務所など、70軒ほどが集まるだけだ。住宅の明かりは10軒もない。
消防団の3人の最年長、菅野…