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 「良い学校に入れたい」「成績を上げたい」。多くの親が子どものためと信じて抱く思いが、虐待の引き金となることがある。そんな「教育虐待」により、バラバラになりかけた家族がいた。受験をきっかけに父親の暴言と暴力にさらされた息子は、老人のように疲れ果て、そして怒りを母親にぶつけた。なぜそこまでエスカレートしたのか。いま、どのように立ち直ろうとしているのか。親子3人がシンポジウムで語ったそれぞれの体験から考える。

拡大する写真・図版「一人でも多くの人に教育虐待があること、ここまでつらいんだよということを知ってほしい」。シンポジウムで発表することを強く希望した息子は、顔を出して登壇した=1月、東京都世田谷区のアーニ出版

人生に疲れた老人のような表情

 体験を語ったのは、首都圏で暮らす40代の両親と中学1年の息子(13)。

 虐待はなぜ始まったのか。端緒は息子が小3の夏。中学受験のため塾に通い始めたことだった。父親も中学受験の経験者。「受かっても受からなくても、良い経験になる」。親子とも、軽い気持ちでスタートした。

 ただ、成績は思うように伸びなかった。

 小4の夏。勉強を教えていた母親に息子が反抗的な態度をとったとき、父親が初めて怒鳴りつけた。「最初は我慢していたんですが、しきれなくなった」。息子がものすごく驚いた顔をしたのを、父親は今でも覚えているという。

 以来、父親がつきっきりで勉強をみるようになった。はじめは夜9時まで。時間は徐々に長くなり、最後は深夜12時ごろまで続くようになった。

 父親の暴力や暴言も始まった。「勉強をやれ」「早く覚えろ」「やらないと殺すぞ」。包丁を突きつけ、問題を間違えると頭をたたいたり、水をかけたりした。

 息子は「どうすればいいか、頭が真っ白になった」。自律神経をおかしくして、腹痛が始まった。目にはくまができ、学校では先生や友だちにも心配された。父親が帰宅してドアを開ける音、赤ペンでシュッとバツをつける音、あごをしゃくって怒る癖。全てが怖くなった。

 それでも父親は「受験勉強ってこんなものだ」と思っていた。24時間監視するような毎日が1年以上続いた、ある朝。息子が登校時間になっても、ソファで横たわったまま動かない。父親が声をかけると、力なく首を振った。小学生とは思えない、人生に疲れた老人のような表情だった。「これはおかしい」。父親は初めて異変に気づいた。

 息子は当時をこう振り返る。「もう無理だと思って、気力の糸がぷつんと切れた。世界から色が消えたみたいな白黒の世界が広がった」。父親は暴力や暴言を一切やめたが、息子はその日から学校に行けなくなった。ずっと家にこもり、ソファで寝て過ごし、嫌な現実から逃げるために、好きでもないゲームに没頭した。

 しばらくすると、突然、息子は怒りを抑えられなくなった。スポーツが得意で、天真らんまん。穏やかだった性格が一変した。何かにとりつかれたように、壁を殴り、物を壊した。一度キレると手がつけられなくなり、父親そっくりの怒り方で母親に当たった。「そういうことでしかストレスを発散できなかった」。ただ、怒った後は自己嫌悪に陥り、自分の心も傷ついた。「肺にゴムが詰まったような気分で、苦しかった」

 「死にたい」。息子は生きることを拒否する発言を繰り返すようになった。食事をとらず、風呂にも入らない。背骨やあばら骨が浮かび上がるほどやせ細った。

競争社会とはこういうもの

 父親はなぜ虐待するようになったのか。

 「教育はスパルタが一番いいと…

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