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 関西地方の小さな町に住む男性(62)は、生まれつき血を固める血漿(けっしょう)成分(凝固因子)が足りない血友病の患者です。幼いころから関節内出血を繰り返し、体内にたまった血液に圧迫された関節が曲がり、身体障害者の認定を受けました。その後、凝固因子を補う血液製剤の改良が進み、痛みは軽くなりました。就職した1981年は「完全参加と平等」を掲げる国際障害者年。「障害者にも明るい未来が待っている」。希望を持って社会人としてのスタートを切った男性の喜びは長く続きませんでした。治療に欠かせない血液製剤の中に深刻な病気を引き起こす病原体が入り込んでいたからです。

出発は希望に満ちていた

 男性が血友病と診断されたのは、3歳のころだった。

 生まれつき血を固める血漿成分が足りない病気で、出血が止まりにくい。幼いころから関節内の出血を繰り返し、激痛に苦しんだ。体内にたまった血液に圧迫されたひざやひじが「くの字」に曲がったままの状態になった。中学1年の時に、身体障害者の認定を受けた。

 その後、凝固因子を補う血液製剤の改良が進んだ。大学生のときには、数千人以上の血漿から凝固因子を抽出し精製した「濃縮製剤」が発売された。止血の効果が高く、痛みも軽くなった。

拡大する写真・図版ほぼ一日おきに静脈注射で凝固因子を定期補充する。ヒトの血漿(けっしょう)を原料としない遺伝子組み換え製剤を使用している

 1981年、実家近くの職場に就職した。人事担当者らには、病気のことを告げた。肉体労働はできないことを理解してもらうためだったが、「完全参加と平等」を掲げる国際障害者年だったことも支えになった。

 「障害者にも明るい未来が待っている」。社会人としての出発は希望に満ちていた。

 その年の秋に結婚。長女(36)が生まれた83年、患者の自己注射に公的医療保険が適用された。仕事中に出血しても、自分ですぐに凝固因子を補充できる。「血友病は克服された」と思った。だが、喜びは長く続かなかった。

 81年に米国の男性同性愛者で報告されたエイズがその翌年、血友病の患者でも発症したことがわかった。その頃、血液製剤の原料となる血液は米国に依存しており、ウイルスを不活化する加熱処理もされていなかった。

 厚生省(当時)は83年に研究班を設けて血液製剤の安全対策を検討した。だが、エイズはまだ原因がわからず、発症率は極めて低いとの見方もあった。男性は85年に加熱製剤が承認されるまで、非加熱製剤を使い続けた。

 エイズの原因は、性交渉や血液製剤によって感染するヒト免疫不全ウイルス(HIV)で、無症状の期間を経て免疫力が低下する、発症率も致死率も高い病気であることがやがて明らかになる。

 「2人目は男の子がいいね」。妻(63)と話していた男性は妻子への感染を心配し、検査を受けた。結果は「陽性」だった。

差別恐れ「非感染者」装う

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