拡大する写真・図版パネル討論。(左から)中川翔子さん、向井千秋さん、佐々木宏さん=東京都港区

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 半世紀ぶりの月着陸をめざす有人探査計画や、宇宙時代に人類がどう適応できるのかを考える「朝日宇宙フォーラム2020」(朝日新聞社主催、宇宙航空研究開発機構<JAXA>後援、ヤクルト本社協賛、ANAホールディングス、東京理科大協力)が1月、東京都港区で開かれた。日本人女性初の飛行士である向井千秋さんが基調講演したほか、技術者らを交えたパネル討論があり、日本の宇宙開発の未来を語り合った。

月に日本人は行ける?第一人者が解説 MOOVOO

向井千秋さん基調講演「月で暮らすには」

拡大する写真・図版基調講演で話す向井千秋さん=東京都港区

むかい・ちあき
心臓外科医から日本人女性初の飛行士となり、1994年と98年に宇宙へ。2016年から現職。宇宙長期滞在のための技術開発や人材育成を進めている。JAXA特別参与

 宇宙はかつて、虫歯のある人や目の悪い人は行けませんでした。しかし、宇宙医学の支援で可能になっています。

 私がスペースシャトルで2回目の宇宙飛行をした1998年、77歳のジョン・グレン飛行士が一緒でした。米国初の飛行士の一人で、この時は最年長。10日ほどの飛行で、平衡感覚や心臓、筋肉などが影響を受けた度合いは30代の飛行士と同じくらいでした。

 宇宙はもはや一般の人でも行けるし、少し病気があっても月まで遊覧飛行できる時代になってきています。

拡大する写真・図版基調講演で話す向井千秋さん=東京都港区

 確かに、宇宙では骨や筋肉が衰えますし、狭い空間では精神的なストレスも受けます。放射線も、地球の半年分を1日で浴びてしまう。

 しかし、宇宙は加齢による変化の実験場でもあるのです。宇宙医学は病気やケガを未然に防ぐ究極の予防医学です。こうした課題への対処法は地球でも応用できる。これから様々な面白い結果が出てくるでしょう。

 将来、人類が月面で暮らすためにはどんなことが重要でしょうか。月に行くには、放射線が強い「バンアレン帯」を通らなければいけません。月の砂は地球よりギザギザしていて、吸い込むと肺が炎症を起こしてしまいます。放射線対策や、砂を居住区に持ち込まない工夫が必要です。

拡大する写真・図版基調講演で話す向井千秋さん=東京都港区

 飛行士が国際宇宙ステーション(ISS)に滞在するとき、物資は地球から持ち込んでいます。例えるならキャンプにいくようなものです。しかし、ISSよりはるかに遠い月ではそうはいきません。月でつくり、食べる「月産月消」が必要になるでしょう。

 私が副学長をしている東京理科大は、食料や水、空気、エネルギーといった衣食住に関わる研究をしています。月で長期滞在できる技術は、資源の限られた日本がめざす循環型社会の方向性とまったく同じ。私たちは、宇宙で培った技術を地球に持ち帰りたいと考えています。

免疫保つ乳酸菌 JAXA・ヤクルト

 高度400キロに浮かぶ国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」。重力が極めて小さい環境で進んでいる医学研究について、JAXAの小川志保・きぼう利用センター長とヤクルト本社の長南治・中央研究所研究管理センター所長が解説した。

 宇宙では、船酔いのような「宇宙酔い」のほか、筋肉や骨が弱くなるといった人体への悪影響が知られている。筋肉は高齢者の2倍の速さ、骨は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)患者の10倍の速さで減るとされ、長期間の滞在では対策が必要だ。

 また、危険な宇宙空間で多くの任務を続けている飛行士は、強いストレスで免疫機能が低下するという指摘もある。長南さんらは「そんな免疫機能の低下が、乳酸菌で予防できるのではないか」と考えた。

 JAXAとヤクルト本社は17年度から、ISSに滞在する飛行士10人を対象に乳酸菌(L.カゼイ・シロタ株)が免疫機能にどんな変化をもたらすのか調査中だ。血液や唾液(だえき)、排泄(はいせつ)物の分析結果は、「順調にデータが集まっている」という。乳酸菌を生きたままISSへ運ぶため、凍結乾燥させたカプセルは3年かけて開発した。

 今後、人類が火星探査の旅に出るようになると、往復だけで2年以上かかるようになる。閉ざされた空間で長期間、複数の飛行士が活躍し続けるためには、健康の維持が何より大切だ。小川さんは「こうした研究は飛行士のためだが、将来、一般の人が宇宙に行く時にも役立つ」と話した。

中川翔子さんらがパネル討論

拡大する写真・図版パネル討論で話す中川翔子さん=東京都港区

なかがわ・しょうこ
歌手・タレント。小学生で見たヘール・ボップ彗星(すいせい)に感動して宇宙好きに。深海調査船で日本海溝に潜ったことがあり、次は宇宙、できれば木星に行きたい。ツイッターのフォロワーは約68万人

 ――探査機「はやぶさ2」の小惑星着陸やH2Bロケットの打ち上げなど、ニュース盛りだくさんの1年間でした。

 中川 私はオリオン座の1等星ベテルギウスが暗くなっていて、超新星爆発が近いのではという話題にドキドキしました。爆発したら、月くらい明るくなると聞きます。肉眼で見える超新星爆発は数百年もないそうなので、ぜひ見てみたいです。

 ――昨年は、アポロ計画から半世紀ぶりとなる月探査計画も発表されました。

拡大する写真・図版パネル討論で話す佐々木宏・JAXA国際宇宙探査センター長=東京都港区

ささき・ひろし
 1987年、宇宙開発事業団(現JAXA)入り。無人補給船「こうのとり」や宇宙往還機「HOPE」などの開発に携わり、2018年から現職。月や火星探査計画の立案・推進を担当

 佐々木 米国が、2024年に男女2人の飛行士を月面に着陸させるアルテミス計画を発表しました。月を回る宇宙ステーション「ゲートウェー」も建設予定です。日本は、ゲートウェーの生命維持装置や無人補給船「HTV―X」、月面車などの開発を担おうとしています。また、日本独自で21年度に月探査機「SLIM(スリム)」を初着陸させ、その後、月の南極などにあると考えられている水を探す計画です。

 中川 人類がこんなにも月に行っていないのはなぜですか?

 佐々木 アポロ計画の50年前は、米国と旧ソ連(ロシア)が競争していた時代で、米国は国家予算の実に5%を宇宙開発につぎ込んでいました。米航空宇宙局(NASA)のいまの予算は0・5%ほどです。たいへんな力をかけ、月着陸を成功させて、科学的な興味がいったん途絶えてしまったんですね。でも、月への興味は少しずつ戻ってきた。以前ほど費用をかけなくても行ける技術が開発され、再び月探査が現実味を帯びてきました。

 向井 月は割と近くて手軽なんです。米国は将来的に火星に行きたいと思っている。月はそのための実験台なんです。ロシアも火星を狙っていて、行き帰りの500日間の精神状態や宇宙医学を研究するため、人を閉じ込める実験をしていました。

 中川 日本人飛行士が月に立てる可能性もありますか。

 佐々木 日本人飛行士はリーダーシップがあって、NASAからも高く評価されています。月面車を日本がつくるなら、日本人が操縦するのが自然。国際協力で10人の飛行士が月に行くとしたら、そのうち1人くらいは日本人かなと思います。

拡大する写真・図版パネル討論で話す向井千秋さん=東京都港区

 向井 私が飛行士になったころの日本はまだまだ宇宙の発展途上国で、米国からすればスペースシャトルの席に「乗せてあげるよ」というレベルだった。飛行士の医学データを米国に持って行っても、検査のやり直しをさせられたんです。そこから一生懸命頑張って、技術が認められ、人材も育ち、日本は総合力が上がってきた。

 ――火星探査が視野だと、月では何をする必要が?

 佐々木 まず水を探すことです。水を酸素と水素に分解すればロケットの燃料になる。月で大量の水が見つかり、燃料にできる技術が2030年代に確立すれば、地球からわざわざ大量の燃料を打ち上げなくても、効率的に火星に行けるはずです。帰りも、火星にある水で戻ってくるという将来図が描けます。

拡大する写真・図版パネル討論で宇宙への熱い思いを話す中川翔子さん=東京都港区

 中川 火星に片道切符で行く飛行士が募集されたこともありました。私は途中で病気になるのが心配ですが、現実的には?

 佐々木 技術的には、行く気になれば行けるでしょう。ただ、ISSとは桁違いの放射線を長期にわたって浴びるので、その対策が課題です。

 向井 地球上の国々が、戦争のような破壊的な行為でなく、建設的なことだけにお金を使っていれば、とっくに月基地ができていたはずです。米国は半世紀前、ケネディ大統領が「月に行く」と演説してから8年で月へ行った。いろんな国が力を合わせれば、火星にも行ける。

 中川 うわぁ、深い!

 ――来場者から質問が寄せられています。どうやったら宇宙飛行士になれますか。

 向井 なりたい気持ちをずっと持つこと、です。これまで宇宙は飛行士しか行けませんでしたが、誰でも行けるようになると、技術者や医者、先生やアーティストといった、いろんな職業が宇宙で必要とされるようになります。だから、自分が貢献できる専門を持つことです。私は月の遊覧飛行の客室乗務員をやりたいと思っています。

 中川 どんな人にも可能性はあるんですね。めちゃくちゃ夢が広がる。私も絶対行きたい!

 佐々木 米国のベンチャー企業がロケットによる宇宙旅行を計画している。宇宙にどんどん行く時代がまもなく来ます。

拡大する写真・図版パネル討論で笑顔を見せる中川翔子さん=東京都港区

 中川 宇宙開発はロマンがあって、人類の進化の証しでもあるんですね。無重力の環境で進む病気の研究にもすごく興味がわきました。人は健康だからこそ活動できる。そういった研究がどんどん進んでいけばいいなと思いました。(構成・石倉徹也

◇パネル討論のコーディネーターは東山正宜・科学医療部次長。司会はフリーアナウンサーの田村あゆちさんが担当しました。