[PR]

 医療の仕組みが整っている日本とは違い、開発途上国では、検診の啓発や医療機器や設備、医療機関、薬剤、人材など、あらゆるものが不足しているのが現状です。そのため、診断されたときには、既に治せない病状に進行しているケースや、早く見つけても十分な治療が提供できないケースがあります。病気自体に対する偏見なども多く、社会的な課題も山積みです。こうした国の間にある経済格差や医療格差を考え、解決のための方策を考えることも、課題です。今回は、国際的な取り組みについて紹介します。

途上国で何が起きているのか

 医学系の学会での学術集会では、新薬や新しい医療技術の発表などが中心になりますが、これらの大部分は先進国での取り組みです。2000年代に始まり、ポルトガルのリスボンで隔年開催されているABC(転移性・進行性の乳がん=Advanced Breast Cancer)シンポジウムでは、開発途上国を含め、国の枠組みを超えて世界のがん医療の課題を考える「ABCグローバルアライアンス」の会議も同時に開催されます。

拡大する写真・図版ABCシンポ会場から大きな橋が見えました。がん医療のギャップ(格差)に橋をかけることもABCのミッションのひとつです。

 ABCグローバルアライアンスは、がん対策を考える国際的な民間団体の連合組織であるUICC(Union for International Cancer Control)が2016年にパリで開催した「世界がん会議(The World Cancer Congress)」で発足させた任意のネットワークです。

 私もこの会議にたまたま参加をしていたのですが、アフリカ大陸や南米、アセアニアなどから報告されるがん医療の現状には、本当に驚き、同じ時代、世界に生きる人として、何かしなければという思いになりました。

 乳がんは、生活習慣などの変化に伴い、現在では開発途上国でも患者数が増えており、世界の乳がん症例の50%、乳がん死亡者の58%は、開発途上国で起きています。また、先進国での診断時ステージ4患者の割合は10%程度にとどまっていますが、途上国では、60~80%が診断時ステージ4の進行がんです。さらに、治療が十分ではないため、たとえ早期発見をしても3人に1人が再発を経験しています。

 こうした現状を踏まえ、ABCグローバルアライアンスは、「世界中のすべての国で、転移性乳がんとともに生きる患者(女性と男性)のQOLを改善、延長をし、治療成績を向上させることを目指しています。また、転移性乳がんの認知度を高めるため、世界中で社会へ働きかけを行う」ことをミッション、ビジョンに定め、活動を展開しています。途上国を中心に助成金が支給されたり、人材育成が行われたりと、少しずつですが取り組みが進められてきています。

達成したい10の目標

 ABCグローバルアライアンスでは、世界中の乳がん医療の未来を変えるための10個の目標を掲げています(図:ABCグローバル憲章)。

 この目標では、治療成績の向上だけではなく、データの活用や緩和ケア、心理サポートの大切さや就労など社会参加や支援の大切さなどがうたわれています。

 目標策定に際しては、過去10年間の乳がん医療の現状を振り返る実態調査をベースにしています。この調査結果からは、乳がんの発症予防や早期発見に焦点をしぼりがちな「ピンクリボン運動」に対し、転移性乳がん患者が疎外感を感じていることなどが明らかになったことから、転移性乳がんに特化した活動を目標として掲げることになりました。

拡大する写真・図版ABCグローバル憲章

 9項目には、経済格差に関わらない治療へのアクセス性の確保もうたわれています。これは開発途上国だけの課題ではなく、高騰化する医療費を背景にした先進国の医療課題や、科学的根拠は示されていても国の保険システムの中では使うことができないドラッグラグなどの課題解決も含めた目標です。

 この憲章は、英語、ドイツ語、スペイン語やフランス語だけではなく、デンマーク語やイタリア語、日本語、ポルトガル語、ルーマニア語、ロシア語、ニュージーランド語など、17カ国語に翻訳されており、世界で共有化されています。

拡大する写真・図版17か国語に翻訳された10個の目標を示した冊子

日本ができることは?

 2日間にわたるワークショップでは、この10の憲章をもとにした議論が行われました。先進国と後進国の医療者、患者、製薬企業の関係者などが混じった6~8人程度のグループに分かれ、それぞれの国の課題を議論しました。私は、カザフスタン、ブラジル、ポルトガル、ドイツ、イギリスの患者さんと一緒のグループになりました。その中で、カザフスタンの患者さんがもってきていたのが写真の冊子です。

拡大する写真・図版カザフスタンの乳がん啓発冊子

 カザフスタンでは、まだまだ病気に対する偏見が大きく、特に、女性が罹患(りかん)すると家族や家から追い出されてしまったり、離婚をされてしまったりするケースもあるそうです。冊子には、予防や検診の大切さ、受けるべき医療機関のリストもついていました。

 日本のがん医療にも様々な課題はあると思いますが、こうした現状を聞くたびに、国民皆保険制度や高額療養費制度の大切さを痛感します。人材育成や交流も含め、アジアの一員として、日本の医療政策の仕組みを伝えていくことや、体験交流を深めていくことも、私たちにできることではないかと思いました。日本の中のがん、世界の中でのがん、様々な視野を持つことがこれからの患者会活動にも必要です。

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。