[PR]

 性犯罪の被害者が、周囲からの言葉で被害後もさらに傷つくことは少なくありません。背景には、被害者に対する偏見や誤解があります。性被害を訴える「#MeToo」が注目される中で、声を上げやすい社会にするためには何が必要なのでしょうか。(山本奈朱香、田中聡子)

 昨年12月、ある発言が物議をかもした。ジャーナリストの伊藤詩織さんが、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして元TBS記者の山口敬之さんを訴えた民事裁判の判決後のことだ。

 勝訴した伊藤さんに対し、控訴を表明した山口さんが開いた会見で、山口さんは「本当に性被害に遭った方」から聞いた話として「記者会見の場で笑ったり、上を見たり、テレビに出演してあのような表情をすることは絶対ないと証言してくださった」と話した。

 この発言が性被害者を傷つけるとして、ツイッターなどで「性被害者は下を向いてろ笑顔を見せるなということか」などと批判が上がった。

 被害経験があるト沢(うらさわ)彩子さん(32)は、性被害者が、被害を明らかにした後に周囲からの言動でさらに傷つけられる行為「セカンドレイプ(二次被害)」にあたると問題視する。

■「絶望し、誰にも話せなくなる」

 ト沢さんも、性被害を明かすと「スカートをはいていたからでは」、性被害をなくそうと活動を始めると「売名行為」などと言われてきた。

 一番こたえたのは、他の性被害者から「正しい被害者」ではないと責められたことだった、と振り返る。「あなたが騒ぐせいで恥ずかしい」「あなたみたいな人が表に出ることは迷惑だ」などと言われた。

 性被害そのものよりも追い込まれる。そう思ったト沢さんは、10年前からセカンドレイプをなくすため、性被害の現状を伝える活動をしてきた。昨年、ネット上で取ったアンケートでは、性暴力に遭ったことがあるとした人のうち、66%はセカンドレイプを受けたことがあると回答した。

 「あなたの被害なんてマシ」「うそつきのメンヘラ(心の病を患った人を指すネットスラング)」などと言われた経験談が寄せられた。30代女性は「親身になってもらえないのだと絶望し、以降、一切、痴漢などの性的被害を誰にも相談できなくなりました」と書いた。

 ト沢さんは言う。「一口に性被害といっても経験や経過はそれぞれ異なる。性被害者が、イメージするような『かわいそうな人』じゃないと、被害に遭っていないのでは、と言われる。これは被害からの回復や『生きていること』の否定です」

■訴えに耳傾け 使命感と勇気に敬意を

 性被害を訴える人への中傷の背景には、何があるのか。被害者のケアに詳しい精神科医の小西聖子(たかこ)さんに聞いた。

 性被害者は、かつては「被害を受ければ誰かに被害を訴えたり相談したりするはずだ」「どうしてすぐ警察に行かなかったのか」と責められた。私たちは「声を上げることはそんなに簡単ではない」と訴え続け、ようやく社会の理解を得てきたと感じていた。

 ところが会見ではそれを逆手に取るような形で、「ああいう言動をするのは本当の被害者ではない」という文脈で使われてしまった。

 被害を受けて戦う人もいれば、何も言えない人もいる。例えば強盗にあった後なら、怒って「相手を捕まえてくれ」と言う人もいれば、「もう早く忘れたい」と言う人もいるだろう。どの態度もおかしくないし、どの人も「大変だったね」といたわられるはず。それなのに、性犯罪だと受け入れない土壌がある。

 性被害者に向けられる「あなたも悪かった」という視線も、特有のものだ。合意がないなら、侵入した方がいけない。酔っていようと、短いスカートをはいていようと、レイプしていいわけがない。意識を失って倒れている人にしていいことは、救急車を呼ぶことだ。

 どうして、このような視線が何十年も変わらないのか。根本的には、被害者の声が社会に出にくいことが大きな要因だろう。被害にあった女性がどう感じて何に困っているのか、あまり社会に知られていないから、乏しいイメージに基づく一方的な「常識」が通用してしまう。偏見や誤解が増幅され、また被害者へ二次被害を及ぼす。その結果、被害者はますます口を閉ざす。悪循環だ。

 断ち切るためには、たくさんの被害者の話を聞き、偏見のない事実を社会全体で共有するしかない。そして、訴えること自体が、今の社会では力のいる、尊敬に値することだということも、もっと分からないといけない。よほどの使命感や勇気がないとできないことだ。

 ただ、訴えると傷つくことが多い。そのことを痛感しているので、私が治療に携わっている被害を受けた人たちに、訴えるべきだとは言わない。できるのは「どういう選択も応援するけど、自分で決めてください」と伝えることだ。

■「私の考えではない」 山口さんコメント

 山口敬之さんは朝日新聞の取材に対し、会見での発言の真意を以下のように説明した。

    ◇    ◇

 私は「性犯罪被害者は笑うべきでない」などとは一度も言っていません。私が記者会見で述べたのは、「実際に性犯罪被害に遭った方から、『本当の性犯罪被害者は伊藤さんのような言動はしない』というご意見と情報提供があった」という事実です。私の考えではありません。性被害者の方がどういう行動をするのか、私は全く知りませんし、言及するつもりもありません。

 (発言がセカンドレイプにあたるとの批判があることについて)そもそもファーストレイプはあったのですか? 私は「伊藤さんは性被害者ではない」と主張しています。会見の場では、私が主張していることを補強してくれる意見なので紹介しました。同じ意見の方を増やすことが、私にとっては喫緊の課題です。そのためにした発言で批判を受けることは、納得できません。

■伊藤詩織さんを巡る事件と裁判の経緯

 ジャーナリストの伊藤詩織さんが、望まない性行為で精神的苦痛を受けたとして、元TBS記者の山口敬之さんに対して損害賠償を求めて提訴し、性行為への合意の有無が争点となった。東京地裁は昨年12月、合意がなかったことを認め、山口さんに330万円の支払いを命じた。山口さんは控訴している。

 すでに警視庁は山口さんを準強姦(ごうかん)容疑で捜査し、東京地検が2016年7月、嫌疑不十分で不起訴処分としている。伊藤さんは検察審査会に不服を申し立てたが、東京第六検察審査会は17年9月、「不起訴相当」の議決を出した。