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 今永昇太は昨シーズン、自己最多の13勝を挙げた。今年も先発の大黒柱として期待されるが、春のキャンプに臨む左腕の表情は柔和だった。

 確かなよりどころがあるからだろう。今永は言う。

 「技術とメンタルは100対0で技術だと思っている。技術さえしっかり高めておけば、心にもゆとりが出る」

 昨シーズンを通して「自分が戻れる場所」を確立した。技術の結集としての投球フォームだ。絶対的な型があるから、ズレが生じても元に戻せる。「自分と戦う回数が減った」の言葉に実感はこもる。

 それは進歩の停止を意味しない。戻れる場所がある安心感は、新たな挑戦を促す。

 1月、自主トレを公開した際の囲み取材で、今永は「骨で投げる」感覚に言及した。同じ表現は昨年のシーズン中にも聞かれたが、意識が向く先に違いがあるという。

 「前までは、肩、ひじ、手首を機械的に使うイメージでした。でも、下半身を意識するんだな、と気づいてきた」

 きっかけは昨年11月に開催された「プレミア12」メキシコ戦。東京ドームで、国際大会仕様のマウンドに立った。

 「あの硬さは人生イチ。自分が柔らかく入っていくと硬いマウンドに負けてしまうので、関節や体幹を固めて入っていくイメージで投げたら、いい感触が得られました」

 このころから全身の人体模型が意識され始めた。改善の余地があると見たのが下半身、特にひざの関節だった。

 軸足となる左足のひざの向き。踏み込む右足のひざの角度。力の伝達のロスや肩ひじへの負担がより少ない形を求め、フォームに微修正を加えてきた。「腕は勝手に振られるもの」という認識だ。

 確立したフォームが「幹」なら、両ひざの角度調整は「枝葉」。あくまで基本のメカニクスを維持しながらのマイナーチェンジであり、技術への信頼は揺らがない。

 その礎の上に心はある。いまのメンタルで、今シーズンの目標をどう語れるだろう。

 「ぼくは2年連続で活躍したことはないので、今年こそ結果を出して新しい壁を乗り越えたい。15勝は通過点。そこを越えなければ、違う景色は見られない」

 26歳の心に彼我を隔てる壁は明確に存在する。エースの称号を冠する投手たちがいる壁の向こうに思いをはせる。

 「当然のように数字を期待されてシーズンを迎える菅野(智之)さんや千賀(滉大)さんと、ぼくの置かれている立場は、重さや覚悟が絶対に違う。常にプレッシャーがかかった立場で野球がしたい。それが自分のキャリアにとっても大事だと思う」

 開幕投手について問うと、今永は両の口角をわずかに上げた。「今年はうれしいことに、そういう質問をされることが少ないんです」

 その表情で1年前のやりとりを思い出した。同じ類の問いに対し、今永は「こういう質問をされているようでは、ぼくもまだまだですね」とつぶやいたのだ。

 自分が開幕戦のマウンドに立つことに誰も疑問すら抱かない。少しだけ近づいたその椅子を、完全に我が物にするためのシーズンが始まる。(横浜DeNAベイスターズ公認ライター・日比野恭三)