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 与党がギリギリで採決強行を見送れば、野党は演説引き延ばし作戦を回避する――。そんな光景が27日の国会であった。新年度予算案の採決をめぐる与野党攻防だが、「ガチンコ」のせめぎ合いを演出する狙いも見え隠れする。

おもむろに立った野党議員が両手で作ったのは・・・

 午後3時ごろ、衆院本会議場。壇上では、立憲民主党の本多平直衆院議員が、予算審議の行司役・棚橋泰文予算委員長(自民)に対する解任決議案の趣旨弁明を行っていた。演説が始まってから、約30分経ったあたりのことだ。

 おもむろに本会議場内の通路に立った立憲の黒岩宇洋議員が、壇上の本多氏が見えるように、両方の手のひらで「○」を作って頭上に掲げる。黒岩氏の様子を確かめた本多氏はその後15分ほどで演説を終え、自席に戻った。

拡大する写真・図版衆院本会議で、棚橋泰文・予算委員長解任決議案の趣旨弁明をする立憲民主党の本多平直氏に向けて、この日の予算委の採決がなくなったことを示す「○」のサインを出す同党の黒岩宇洋氏(中央)。後方右は安住淳国対委員長=2020年2月27日午後2時59分、岩下毅撮影

 何が起きていたのか。

拡大する写真・図版衆院本会議で、立憲民主党の本多平直氏による、自らに対する解任決議案の趣旨弁明を聞く棚橋泰文・予算委員長(後列右)=2020年2月27日午後3時1分、岩下毅撮影

演説長引かせる「フィリバスター」を回避

 実は本多氏はこの日、長々と演説を続けて審議を引き延ばす「フィリバスター」を準備していた。わざとゆっくり話したり、雑談を交えて時間を稼いだりする演説手法で、米国議会などでも見られる。与党側が27日中に新年度予算案を採決する構えを見せたため、野党側はフィリバスターで徹底抗戦の姿勢を示そうとしたのだ。

拡大する写真・図版衆院本会議で、棚橋泰文・予算委員長解任決議案の趣旨弁明をする立憲民主党の本多平直氏=2020年2月27日午後2時39分、岩下毅撮影

 そもそも予算案審議では、与党が年度内成立を最重要課題とするのに対し、野党は「審議が不十分だ」として成立を遅らせるのが一般的だ。数で劣る野党が正攻法で採決に臨めば、あっさり終わってしまう。このため、あの手この手で審議を延ばそうとする。

 この日のサイン作戦は、事前に野党統一会派の議員たちに伝えられていた。本会議中に与野党の国会対策委員長が交渉し、与党が強引に採決に持ち込もうとしたら「×」、採決を28日に先送りすることになれば「○」を出す――というシナリオだった。

 果たして本会議が午後2時半から始まると、自民党の森山裕国会対策委員長と立憲の安住淳国対委員長が議場を出て会談。会談が終わると、安住氏は記者団に「今日の採決は見送られた」と語った。議場に戻った安住氏は、黒岩氏に指で「○」と合図。黒岩氏は早速、壇上の本多氏にサインを送った。

拡大する写真・図版衆院本会議で、棚橋泰文・予算委員長解任決議案の趣旨弁明をする立憲民主党の本多平直氏に向けて、この日の予算委の採決がなくなったことを示す「○」のサインを出す同党の黒岩宇洋氏(中央)=2020年2月27日午後2時59分、岩下毅撮影

国会ベテラン職員「裏で握っていた。シナリオ通り」

 野党が比較的すんなりと事態を収束させた背景には、今国会の「特殊事情」もある。新型コロナウイルスの感染拡大だ。野党は「安倍政権の対策は後手後手に回っている」と批判を強める一方で、「予算案に抵抗して国会審議を遅らせることは国民から批判を浴びかねない」(野党国対の幹部)とのジレンマもあった。

 そうした状況は与党側も織り込んでいたかのように、採決の1日先送りをのんだ。与野党が演じた駆け引きを、ベテランの国会職員はこう解説した。「与野党がぎりぎりの攻防を演じているようにみせて、裏では握っていた。シナリオ通りではないか」

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 第201回通常国会。国会や政党など政治の現場での様子を「政治ひとコマ」としてお届けします。(小林豪)