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 仕事を掛け持ちしていた福岡県内の男性(当時49)が死亡したのは過重な業務が原因だとして、男性の妻が国を相手取り、労災と認めなかった処分の取り消しを求め、福岡地裁に提訴した。妻側は副業先の労働時間を合わせれば労災認定の基準を超えると主張。国側は請求棄却を求めている。

 提訴は昨年10月28日付。その約2カ月後、国の労働政策審議会の部会で、本業と副業の労働時間を合算して労災認定を判断する方針が了承され、2020年度にも実施される見通しになった。妻側は「合算して労災と認めてほしい」と主張している。

 訴状によると、男性は13年に福岡県内の農協に嘱託職員として雇われ、農協が運営するパン店の店長になった。非正規雇用で給与に不安があったため、パン店の休日には造園会社で仕事をしていた。16年に造園会社の作業現場で倒れ、くも膜下出血で亡くなった。

 労働基準監督署は、パン店での時間外労働時間が労災の認定基準(直前の1カ月間でおおむね100時間など)に達しないことを踏まえて労災と認めず、遺族補償年金などを支給しないと決定。これに対し妻側は、副業である造園会社の労働時間を合算すれば、死亡直前の1カ月前の時間外労働時間が115時間に達し、基準を超えるとして再審査を請求した。国の労働保険審査会は「通算すべき法律上の根拠はない」などとして棄却した。

 妻側は訴訟で、国が、制度変更が決まった後も不認定の判断を変えない場合は、地裁に新しい基準も踏まえて判決で労災と認めるように主張する考えだ。妻は取材に対し「子どもが3人いて学費もかかり、将来的な不安は大きい。遺族補償があれば生活はだいぶ助かる」と話す。

 一方、国側は2月に地裁に提出した準備書面で、現状の基準に沿って「合算できない」と主張している。

 厚生労働省の担当者は取材に「改正法の施行前に発生した災害は、施行前の基準で判断する」として、労災申請中や訴訟中の事案での合算について否定的な見解を示している。

 労働問題に詳しい光永享央弁護士(福岡県弁護士会)は、過去に労災基準が変更となった際に、旧基準ではなく新基準に基づいて裁判所が判断したり、国側が労災不認定の処分を自ら取り消したりしたケースがあると指摘。「裁判所が新基準で労働時間を合算して判断することはあり得る」と話す。(一條優太)