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 法律の解釈を変更したのは「至当(しとう)」だからです――。東京高検の黒川弘務検事長の定年延長(勤務延長)をめぐる野党の追及に、論点をずらす答弁を繰り返してきた森雅子法相が、新たな言い回しを繰り出した。「至当」とは、当然や適切といった意味の言葉。野党側は「何の理由も述べないで『至当だ』と言われたら、質問できない」と憤った。

拡大する写真・図版参院法務委で、立憲民主党の真山勇一氏の質問に答弁する森雅子法相=2020年3月24日午前10時48分、岩下毅撮影

 31日の衆院法務委員会では、法解釈の変更で黒川氏に定年延長の道を開いた政府の手法に改めて批判が出た。日本維新の会の串田誠一氏は「政府の言いなりになっている人たちがエリートになっていく」と指摘した上で、法改正によって検察官全体の定年を引き上げるべきだったと主張。なぜ解釈変更で対応したのかをただした。

 そこで森氏から、聞き慣れない言葉が飛び出した。「従前の解釈を変更することが『至当』であるとの結論が得られたので、法改正によらず、今般の解釈変更を行った」。至当という単語が過去の審議で使われたか、国会会議録検索システムで検索したが、昨年や一昨年は引っかからない。

拡大する写真・図版衆院予算委員会で質問する日本維新の会の串田誠一氏=2019年2月25日、山本壮一郎撮影

 串田氏が「なぜかと聞いたら『至当だと思うからです』。答えになっていない。それ、答えだと思っていますか」とさらに問うと、森氏は「解釈変更が『至当』だと解釈した」。重ねて串田氏が、「社会情勢が変化」を解釈変更の理由とすることが内閣の総意かと尋ねた際も、森氏は「至当」と繰り返した。

 串田氏が所属する維新は、安倍晋三首相が推し進めようとしている憲法改正についても積極的な立場をとり、「改憲勢力」にも位置付けられる政党。それでも、森氏の答弁ぶりに我慢できなかったのか、串田氏は改憲論議と絡めた追及も見せた。

 引き合いに出したのは、憲法9条に自衛隊の存在を書き込む改憲案をめぐって、首相が行った「自衛隊の任務や権限は変わらない」との説明。串田氏は、「『社会情勢が変化すると解釈を変更していい』という政府が、『憲法改正の議論を信じてください』と言える資格があるか」と突っ込んだ。

拡大する写真・図版衆院予算委員会で質問する階猛氏=2019年2月21日、岩下毅撮影

 串田氏の質問に先立ち、野党統一会派の階猛氏(無所属)も、法改正によらずに解釈変更を急いだ理由をただした。森氏は「黒川氏の個別の人事のために今回の法解釈の変更をしたわけではない」としつつ、解釈変更に至った政府内の調整過程の説明を繰り返した。「個別の人事についてはお答えを控えたい」という定番の答弁もあった。階氏は「まったく説明ができていない。やっぱり黒川氏のためだったのか」と断じた。

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 森法相と階氏、串田氏の主なやり取りは以下の通り。

 階氏 (検察官の定年を引き上げる)法改正の前に、先取りする形で(黒川検事長の定年延長という形で)運用を始めた。その理由はどこにあるのか。

 森氏 検察官の定年引き上げの法案は、昨年11月末に内閣法制局第2部長の審査が終了しているが、法案の提出には至っていなかった。そこで、本年の通常国会への提出に向けて時間ができた。昨年12月ごろ、解釈を維持するのが妥当かという観点に立ち戻って検討するなどし、省内の議論を経て、今般の解釈に至った。

 階氏 答えていない。なぜ、法改正を待たずして、法解釈を変更して運用しなければいけなかったのか。そこを聞いている。

 森氏 1月17日までには法務省内で、検察官の勤務延長について、国家公務員法の(定年延長の)解釈が(検察官に)適用されるとの解釈にいたった。ただちに関係省庁と協議を行い、解釈変更について異論はない旨の結果を得て、最終的に結論を得た。

 階氏 質問に答えていない。法改正を経て運用すればいい。なぜそんなに急ぐ必要があったのか。

 森氏 1月17日から24日の間で(関係省庁と)協議し、異論はない旨の回答を得て、同日の段階で最終的に結論を得た。その後の個別の人事についてはお答えを控えたい。

 階氏 個別の人事を聞いているのではない。なぜ法案の前に運用を急ぐのか。

 森氏 いつ法改正されるかは別の話だ。解釈変更は、この改正法案を検討する過程で、これを解釈変更できるし、すべきだという結論に至った。実際の運用については、特に急いだとか、そういうことについては、個別の人事については差し控える。適正なプロセスだった。

 階氏 黒川氏のために法改正の前に解釈変更をしたととらえられる。国民は納得しない。説明してほしい。

 森氏 黒川氏の個別の人事のために今回の法解釈の変更をしたわけではありません。現行法の解釈として1月24日の段階で、検察官にも勤務延長が適用できると解釈した。その後の人事は、現行法の解釈を前提に、検察庁の公務遂行上の必要性から勤務延長の閣議請議(せいぎ)をした。

 階氏 まったく説明ができていない。やっぱり黒川氏のためだったのかという疑念が強まる。

 串田氏 想定していないような解釈変更をするということは、行政が立法行為をしているのと同じじゃないですか。(黒川氏の個別の定年延長ではなく、検察官の)63歳の定年を65歳にする法改正をすればよかった。一律にすることが大事なんですよ。政府の言いなりになっている人たちがエリートになっていくのを目の当たりにしている。なんで法改正ではなく、解釈変更によって行ったのか。

 森氏 法務省において必要な検討を行い、従前の解釈を変更することが「至当」であるとの結論が得られたので、法改正によらず、今般の解釈変更を行ったものでございます。

 串田氏 何の理由も述べないで「至当だ」って言われたら、質問することができないじゃないですか。なぜ検察官への圧力にも関係するような解釈変更にするのか。法改正して堂々と国会で審議すればいいものを。「なぜか」って聞いたら、「至当だと思うからです」。答えになっていないじゃないですか。森法相、それ、答えだと思っていますか。「至当だ」っていうのが。

 森氏 さまざまな観点から国家公務員一般の定年の引き上げに関する検討の一環として検察官についても改めて検討し、その解釈の変更が「至当」であると解釈したところでございます。

 串田氏 社会情勢が変化すると解釈変更が許される、というのは内閣の総意という理解でよろしいですか。

 森氏 従前の解釈変更をすることが「至当」であるとの結論が得られた場合には、これを変更することがおよそ許されないというものではないという考え方が政府見解であると承知しております。

 串田氏 いま、憲法改正で9条に自衛隊を明記しても権限は変わらないんだと(安倍首相らは)言う。でも、「社会情勢が変化すると解釈を変更していいんだ」という政府が、「憲法改正の議論を信じてください」と言える資格があるか。森法相は解釈変更を撤回しないと、これからの国会質疑、成り立たないと思います。

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 第201回通常国会。国会や政党など政治の現場での様子を「政治ひとコマ」としてお届けします。(斉藤太郎)