拡大する写真・図版いわゆる「普通の人生」が知りたくて、「普通の人」になりすまし、地域住民の飲み会にまぎれこんだこともある=東京都新宿区、川村直子撮影

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 ある朝、「冷凍サンマのように」体が硬直し、布団から出られなくなった。ぼそっと池井多さん(57)=活動名=が大学生のときだ。うつ病を発症し、入社目前だった大手企業の内定を辞退して部屋にこもった。30年以上にわたって断続的に続く「ひきこもり」の始まりだった。

 その後、日本社会から逃れるようにアフリカや中東へ。見知らぬ街の安宿でひきこもった。本人曰(いわ)く、「そとこもり」。

 帰国後、33歳から37歳まで本格的な「ガチこもり」の状態に。家の外を人が通るとカーテンに差す日の光が揺らめく。それだけで、「世界から自分独りが取り残される」ことを実感し、戦慄(せんりつ)した。その恐怖から逃れるように雨戸を閉め切り、ろうそくの明かりで暮らす日々を送った。

 なぜこんな状態に――。洞窟のような部屋で苦しみ抜いた。「幼い頃からの母からの精神的虐待」が原因だと思い至ったのはこの頃だ。精神医療にもかかったが、状態は悪化した。

 医療者や支援者を通さず、直接社会に思いを訴える。そのために2013年に立ち上げたのが、「ぼそっとプロジェクト(VOSOT)」だ。まずはブログを開設した。これが、ひきこもり当事者発信の原点となった。

 英・仏語を自在に操る語学力を生かし、17年には「世界ひきこもり機構」を立ち上げた。各国のひきこもり状態の人とSNSなどで交流する。

多様性を伝える

 折に触れて強調するのは、ひきこもりの多様性だ。自室から一歩も出ずに、家族に食事を運ばせ、昼夜逆転――。こうしたイメージは根強いが、個々の状況は皆違う。「私が発信するのは他の人が発信するための触媒になれればという思いから。みな違うからこそ、多くの当事者発信が必要です」

 内閣府の推計では40~64歳の「中高年ひきこもり」は全国に約61万人。17年から開催する「ひ老会(ひきこもりと老いを考える会)」は、中高年の子と高齢の親が孤立して様々な問題が起きる「8050問題」を、当事者の視点で考えようという企画だ。

拡大する写真・図版「ひ老会」で参加者の話に耳を傾ける。この日はイタリアの映像ドキュメンタリー作家も取材に訪れた=東京都練馬区、川村直子撮影

 1月4日、今年最初のひ老会が開かれた。参加者は約20人。「私は親と音信不通です」。まず当事者として自らを語り、静かに参加者の言葉を待つ。

 「感情を殺して生きてきた。僕は怒りが出せない」(男性)

 「自分のあり方を守るためにひきこもるしかなかった。長い間お風呂にも入れなかった」(女性)

 胸に秘めた深い苦悩をそれぞれが吐露する場となった。

 今も部屋から出られない日は多い。外出は「非日常」だ。「私はひきこもりであるがゆえに、ひきこもりを極めることによって、社会と再び接点を持つことができた」(清川卓史

母との確執

 ――もう20年ご両親と会っていないと聞きました。

 家族会議で母の精神的な虐待を…

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