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 9年前の3月11日。東日本大震災の津波で、児童74人と教職員10人が犠牲になった宮城県石巻市の市立大川小学校。前橋市の絵本作家、空羽(くう)ファティマ(本名・関口恵子)さん(57)が、児童の遺族への聞き取りをもとに物語を作った。「あの時、犠牲になった子どもたちはどうすればよかったのか。子どもの命を守るということについて、本気で考えてほしい」と話している。

 物語のタイトルは「『ただいま』の声が聞こえない 大川小 てっちゃんと74人の天使たちのmessage」。空羽さんは2015年、乗っていた幼稚園の送迎バスが津波と火災にのまれ、犠牲になった石巻市の佐藤愛梨さん(当時6)を主人公にした絵本を出版している。

 空羽さんは同年秋、大川小を初めて訪問。遺族の案内で校舎内外を歩いた。2階の壁に残る浸水の跡、柱から根こそぎ折れた渡り廊下などの惨状を目にした。泥にまみれた数台の倒れた一輪車を見た時は、人目をはばからず号泣した。「津波の直前まで子どもたちが楽しく遊んでいたと思うと……」。思い出しても胸が苦しくなるという。

 校舎の廊下にある、名前が貼られたままのさびたフック。娘を亡くした男性が「ここに来るたびにこれをなでるんです」と話す姿は、今も脳裏に刻まれている。この時、空羽さんは物語を作ろうと決めた。

 自分が見た光景や、その場での遺族の話に加え、電話やメールで他の遺族にも尋ねた。新聞記事などの資料も集めた。B5判のスケッチブックに1年半かけて物語を書いた。

 「俺たちここにいたら死ぬべや!」。大津波警報が発令される中、一部の児童は学校の裏山への避難を教員に必死で訴えたが、戻るように言われ、校庭にとどまって犠牲になった。物語では、聞き取りをもとに当時の様子も描写している。

 「犠牲になった子どもたちはもちろん、現場の教師も責めることはできない。問題の根本は『とにかく先生の指示は絶対』という考えを植え付けてしまった教育にあるのではないか」と空羽さんは話す。

 空羽さんが所属する市民団体「キャメルングループ」は学校や病院、ホテルなどで絵本の朗読コンサートを行う活動を続けている。当初は8日に群馬県伊勢崎市図書館で、物語を初めて公表する朗読コンサートを開く予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となった。主催者は「考えてほしいテーマがたくさん含まれており、時期を改めて開催したい」と話している。

 空羽さんはこれまで、子育て中の母親たちへのメッセージを込めた内容を中心に15冊の絵本を刊行しているが、今回の物語は制作費の都合で絵本化が果たせておらず、協力を募っている。問い合わせはメール(fatima@camelun.com)か、メンバーの海扉(かいと)アラジンさん(080・5697・1653)へ。(中村瞬)