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 私が勤務する病院では、入院患者さんに対する面会が原則禁止になりました。新型コロナウイルスの流行を受けてのことです。一般の集団においては新型コロナウイルスに感染しても80%が軽症で済みますが、入院患者さんは高齢者や持病を持っている人が多く、重篤化しやすいため、もし感染すれば亡くなるリスクも高いです。現時点では面会禁止はやむを得ないことでしょう。

 とはいえ、福岡では状況は落ち着いています。インフルエンザが流行していないためか、外来での発熱患者さんは例年より少ないです。肺炎の患者さんが多いという話も聞きません。この落ち着きは私にとって予想外のことです。2月20日に福岡市内で2名の陽性者が確認されました。この2名はご家族で、海外渡航歴もなくどこから感染したのかは不明です。クルーズ船において毎日何十人もの陽性者が確認されたことが報道され、陰性者の検疫期間が終わって下船がはじまったころです。

 この2月20日の時点では、福岡で次々に多くの感染者が出ることを私は予想していました。福岡には博多港があり海外からの観光客も多く、知らないうちに感染が広がっていてもおかしくありませんでした。しかし、3月1日に北九州市で3人目の陽性者が確認されたものの、3月12日の時点で福岡県内の陽性確認者はこの3名のみです。509名を検査して、そのほとんどが陰性だったのです(福岡県のサイトによる)。

 もちろん、感染したけれども軽症で検査されないままの人もいたでしょう。というか、いたに決まっています。しかし、検査された500名超は、症状が長く続いていたり、すでに肺炎を起こしていたりして、感染している疑いの強い人たちです。感染している可能性の高い人たちを何百人も検査して3人しか陽性者がいないことから、感染者がゼロとは言えないものの、少なくとも現時点での福岡県では新型コロナウイルスは蔓延(まんえん)してはいません。

 クルーズ船では少数の感染者から何百人もが感染しましたし、地域によっては多くの感染者が確認されています。一方で福岡では感染者はとても少ない。なぜこんなにも違うのでしょうか。おそらくは、感染者の多くは周囲にそれほど感染させないものの、特定の状況では一気に多数の人に感染させるという新型コロナウイルスの特徴のためでしょう。この特定の状況が「クラスター(患者の集団)」です。日本では、クルーズ船やライブハウスやスポーツジムなどで発生しました。換気が悪く、混雑し、近距離で会話をする場所で起こりやすいと考えられています。

 福岡はたまたま運よくクラスターが発生しなかっただけでしょう。しかし、いつクラスターが発生するかわかりません。この原稿を書いて掲載されるまでの間に、福岡で新たに複数の感染者が確認される可能性もあります。油断なく感染対策を続けるべきです。せきエチケットや手洗いはもちろんのこと、入院患者さんとの面会の原則禁止もその一貫です。ご理解とご協力をお願いいたします。

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。