選抜中止「夏に向けて大きな力に」 前を向く球児たち
「非常に残念だが、最後のチャンスである夏に向けて一日一日を大事に練習していこう、と選手たちに呼びかけたい」。履正社(大阪)監督の岡田龍生の言葉には、無念さがにじんだ。第92回選抜高校野球大会の中止が決まり、夏春連覇の可能性は消えた。
それまでも、新型コロナウイルスの感染拡大で、大会に選出されていた学校は対応に追われ続けた。公立の倉敷商(岡山)では、政府からの「全国一斉休校」要請以降、状況が二転三転した。3月2日から練習が中止に。岡山県教育委員会に「1日3時間まで」「集まるのは30人」といった計画書を出し、6日に練習を再開した。グラウンド到着時に検温。1時間おきにマネジャーが笛を鳴らし、そのたびに選手は練習を止めて手洗いやうがいをした。
だが、その日に倉敷市在住の感染者が出て翌日から再び練習休止に。9日に再び始めたが、11日に選抜大会中止が決まって練習もまた取りやめとなった。監督の梶山和洋は「いつ再開できるかわからないが、夏に気持ちが向くようにしたい」。
感染者が増え続けたことで2月28日に「緊急事態」が宣言された北海道。白樺学園は3月2日に練習を再開し、感染予防のため部員を少人数の班に分けて練習に参加させるなど、準備を続けてきた。事態が刻々と変わるなかで「情報があふれ、どうすれば感染を防げるのかわからない不安がずっとあった」と部長の亀田直紀。選抜が中止になったことで、部員の9割を占める寮生を自宅に戻すことになった。
数日間、部活動を自粛した仙台育英(宮城)の監督、須江航は「うちは私学なので学校の判断だったが、(活動の可否に対する)一律の判断をもっと早くしてもらいたかった。高野連がというわけではなく、国なのか、自治体なのか」と漏らす。
4月25日に開幕予定だった春季四国地区大会は中止が決まった。春季県大会も愛媛や高知で中止となり、開催の可否が検討されている大会もある。次の目標となる夏を目指す球児たちの前に、例年とは違う道が待つ。選抜大会の中止を発表した11日の記者会見で、そんな球児へのエールを求められた日本高校野球連盟会長の八田英二は「(感染状況が)夏までにどうなっていくのかわからないが、教育の一環であることを念頭に球児に寄り添って運営していきたい。この決意に揺らぎはありません」と語った。
球児たちは前に向かおうとしている。
明豊(大分)監督の川崎絢平は11日、気持ちを切り替えるための休養が必要かどうか、選手たちに問いかけた。翌日、主将の若杉晟汰(せいた)から答えをもらった。「この悔しさを甲子園で晴らしたい。今すぐにでも夏に向けてスタートを切りたいです」。中止が決まった夜、泣きながら素振りをしていた選手たちはすぐに腹をくくった。「ぎらぎらしたものが出てきた。それにどう応えてやれるのか、プレッシャーがさらに覆いかぶさってきた」と、川崎自身も身を引き締める。
中京大中京(愛知)監督の高橋源一郎が12日朝、グラウンドに着くと、前日までは選抜大会までの日数が書かれていた部室外壁の貼り紙が、夏の愛知大会開幕予定日までの「114」に変わっていた。高橋は言う。「1人ではないので、みんなで乗り越えて、このことが夏に向けて大きな力になればいい」
=敬称略
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