Vチューバー相内ユウカ、優香は「つくづくつまらない」

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構成・岩田智博
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 テレビ東京アナウンサーの相内優香さん(34)は、報道番組「WBS」(ワールドビジネスサテライト)などに出演する一方、バーチャルユーチューバー(Vチューバー)相内ユウカを演じ、YouTubeで配信するニュース解説動画が人気を集めている。現実と仮想の二つの存在であり続けるとは、どういうことなのか。いずれ多くの人が「自分とは別の『なりたい自分』をアバターにしてバーチャル上で振る舞う時代が来る」と主張するバーチャル認知科学者の佐久間洋司さん(23)は、相内優香と相内ユウカが「偶然の先行事例」と話す。どういうことなのか。相内さんと佐久間さんが語り合った。

テレ東アナウンサー・Vチューバーの相内優香・ユウカが語る

 《Vチューバーとは》 人の動きをCGキャラクターで再現した仮想のキャラクターで、YouTubeといった動画サイトなどで活動。現在1万人を超えるとされ、企業や自治体発のVチューバーも増加している。ゲーム実況や歌唱などを行う草分け的存在のキズナアイのYouTubeチャンネルの登録者数は、約270万人。

 佐久間 様々なVチューバーや企業を調査してきました。その中で相内ユウカ(ユウカ)の特殊性は、アナウンサーの相内さん自身が演じ、それが明らかになっている点です。

 相内 始まりが他のVチューバーとは全く違います。2018年夏にWBSでVチューバーを体験取材したら反響が大きくて、バーチャルアナウンサーのユウカは誕生しました。そもそも私は名前も変え、まったくの別人になりたかった。でも私の知名度や個性をいかそうという話になり……。「好きなことできないのではないか」と当初は思いました。ただ始めると、似ている点もありますが、ユウカと私は全然違いました。アニメ声だし、永遠の23歳。しかも敬語も使わず毒舌です。ちなみにアニメ声は、ボイスチェンジャーを使っていません。新聞を読むときに数種類の声で読むのが習慣で、その一つがユウカだったんです。一般にVチューバーは声を声優、動きを別の方が操作することも多いようですが、表情も私が手動で操作しています。この辺も他のVチューバーとは違うのかな。

 あいうち・ゆうか 1986年、群馬県生まれ。立教大学社会学部卒業後の2008年、アナウンサーとしてテレビ東京に入社。報道番組を中心に活躍。昨年9月に配信動画の内容をまとめた『Vチューバー相内ユウカが経済ニュースわかるまで聞いちゃった。』(日本経済新聞出版社)を出版した。

 佐久間 ユウカの青い髪や瞳といった造形もいいですね。

 相内 5人くらいのユウカチームがあり、みんなで相談し、私の理想をすべて詰め込み、たどり着きました。スタイルの良さはもちろん、経済番組発のVチューバーなので知的なイメージ。WBSカラーの藍色を入れるためにも、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイと「美少女戦士セーラームーン」のセーラーマーキュリーを混ぜたような容姿がいいと主張しました(笑)。

 佐久間 Vチューバーと専門性についても考えています。本来は弁護士といった専門性がある人物でも、本人の所属組織や肩書を出さない限り、視聴者が信用する方法がバーチャル上にはない。その意味で、最も専門性のあるVチューバーはユウカだと思います。実在する人間をモデルにすると、専門性を付与することができるのかもしれない。

 さくま・ひろし 1996年、東京都豊島区生まれ。大阪大基礎工学部の4年生。大学1年からアンドロイド研究で知られる石黒浩教授の指導を受け、2年次にはトロント大に留学。AI(人工知能)やVR(仮想現実)の技術を用いて共感などを研究。大阪府市設置の万博に関する有識者懇話会委員なども務める。

 相内 多くの歌ったり、踊ったりするVチューバーの中で差別化をするため、経済キャスターという特性を出しました。「中の人」が私だと割れていることで、視聴者に専門性を認めてもらうことができていると思います。当初、私が狙っていたように全くの別人のVチューバーにしていたら、経済キャスターという専門性を持ったVチューバーは信頼を得ることは難しかったでしょう。

リアルな相内では無理なことも

 佐久間 僕も研究のために自分をモデルにしたアバター(分身)をデザインしました。すると、面白いことにアバターと同じような服を気づかないうちに買うようになったり、振る舞いも近づいたりするようになった。こういう話はVチューバー界隈(かいわい)でよく耳にします。

 相内 私は違う自分を演じているつもりだったのですが、リアルの自分の性格にユウカが移ってきた時期がありました。好き勝手に話すユウカのように、言いたいことをバンバンしゃべるようになったんです。なりきるリスクを感じましたね。普段の我々は友人や家族、恋人との関係、会社での役割など様々な自分が無意識にあり、ペルソナを使い分けて過ごしていると思う。そのベースの上でユウカでは強調して演じるから、影響を受けるということなのかな。最近ようやく、コントロールできるようになりました。ただ、プライベートは侵略されましたが(笑)。アナウンサーの仕事では問題なかったです。

 佐久間 アナウンサーになるのも、ユウカになるのも演じているという意味では同じなのでは。

 相内 「アナウンサーの相内は虚像なのか」と聞かれることがありますが(笑)、アナウンサーは自分の延長線上。まったく違うという感覚ではありません。それに対してユウカもバーチャル上のアナウンサーなのですが、自分からはめようとしているという感覚なんですよね。不適切かもしれませんが、「憑依(ひょうい)」という表現が近いかもしれません。もちろん、ユウカの要素は私にまったくないわけではなく、一面だとは思います。プライベートにもなく、アナウンサーの自分にもないところ。ユウカであろうとして得られた自分がいることは確かですね。

 佐久間 デジタルネイティブは、複数のツイッターアカウントを駆使し、ハンドルネームやアイコンを自在に使います。その若い世代が、バーチャル空間でアバターを使う時代もおそらく来る。自分とは別の「なりたい自分」をアバターにしてバーチャル上で振る舞うのです。その先陣はVチューバーだと言われます。特に本人でもあり別人でもあるというユウカの設定は、偶然の産物とはいえ、先行事例です。

 相内 「なりたい自分」で言えば日々、感じるのはアナウンサーであることで、気をつけないければいけなことの多さです。言葉遣いもそうだし、会社の看板を背負っている面もありますから、行動も縛られます。絶対にリアルな相内では無理なことを、ユウカではできていますね。日経新聞の滝田洋一編集委員を「滝じい」って呼んだりして……。先日、ユウカと相内の双方が出るリアルイベントをした時に感じたこともあります。ユウカと私が相互に話し手になったり、聞き手になったりと切り替えていたのですが、ユウカの後に話す私は、彼女のような好き勝手な面白いツッコミができなかった。リアルな自分はつくづくつまらないと痛感しました。

 佐久間 Vチューバーになった瞬間に、制約が解き放たれる感覚なのでしょうか。

 相内 ユウカのアニメ声に変えた瞬間、彼女になろうと割り切っているという感覚ですね。

■違う自分、現実世界の人格に…

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