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 現在のところ、新型コロナの検査として広く使われているのはPCR法です。PCRとはポリメラーゼ連鎖反応を英語で言ったときの頭文字からとった用語です。「ポリメラーゼ」とはDNAなどを合成する酵素のことで、「連鎖反応」は同じ反応が繰り返して起こることです。分子生物学では基本となる技術で、私も大学院生のころ、PCR法を使って実験をしていました。微量のDNAでも、2倍、4倍、8倍、16倍…とDNAを増やすことができます。新型コロナウイルスはRNAウイルスですので、最初にRNAをDNAに変換する作業がありますが、増幅の仕組みは同じです。

 臨床医としては、PCR法による新型コロナの検査がどれぐらい正確かが気になります。新型コロナは新興感染症であり、十分に信頼できるデータはまだありませんが、だいたいの目安ならわかっています。日本プライマリ・ケア連合学会の診療の手引きによれば、「PCR検査はウイルスゲノムを検出するという原理から、一般論として感度は低く、特異度が高いと考えられます。初期のPCR検査で陰性だが後日陽性となった患者等の検討により、感度は30~70%程度、特異度は99%以上と推定されています」とあります。ほかの専門家のコメントでもだいたい同じぐらいです。

 感度とは、新型コロナウイルスに感染している人に検査をして、正確に陽性という結果が得られる割合です。感度が70%だとすると、感染者100人に検査して陽性が70人、陰性が30人になります。この30人は偽陰性です。原理的には微量のDNAでも増幅できるはずのPCR法でも、検体にウイルスが含まれていなければ正確な結果が出ません。正しく検体を採取できなかったり、検体を採取した場所にウイルスが排出されていなかったりすると、ウイルスに感染していても偽陰性になります。

 偽陰性なのに感染していないと誤解して出歩くと、他の人に感染させるかもしれません。PCR検査は感度がそれほど高くないので、検査で陰性であっても感染していないと安心はできません。せきや発熱といった症状がある場合は、検査するしないにかかわらず、外出を控えてください。そもそも、新型コロナでなくてもインフルエンザそのほかの呼吸器感染症かもしれません。

 特異度は、感染していない人に検査をして、正確に陰性という結果が得られる割合です。推定では特異度99%以上と高いです。つまり、偽陽性(感染していないのに誤って陽性になること)は少ないのです。前回、福岡県では500人以上も検査して、3人しか陽性が出ていないというお話をしました。いまこの原稿を書いている時点で5人目の陽性者が確認されました。もし、この5人が全員偽陽性だとしても、特異度は99%以上です。何百人も調べて陽性者が出ていない地域もありますので、新型コロナのPCR検査は特異度が高いというのは確かでしょう。

 感度がそれほど良くない以外にも、PCR法にはいくつか欠点があります。連鎖反応を起こす過程で温めたり冷やしたりを繰り返す必要があり、結果が出るまでに時間がかかります。また、鼻もしくはのどから検体を取るときに医療従事者が感染するリスクがあります。

 現在、PCR法以外のさまざまな検査法が開発中です。迅速に結果が出て感度も特異度も高い検査ができればいいですが、それはかなり難しいでしょう。しかし、たとえば特異度が低くても感度が高い検査があれば、PCR法と組み合わせてよりよい診療が可能になります。複数の検査法が実用化され、それぞれの特性を理解した上でうまく使い分けができれば、新型コロナの対策も進むことでしょう。

 ※参考:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療所・病院のプライマリ・ケア初期診療の手引き(https://www.primary-care.or.jp/imp_news/pdf/20200311.pdf別ウインドウで開きます

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。