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香取慎吾とゆくパラロード

 朝日新聞パラリンピック・スペシャルナビゲーターの香取慎吾さんがさまざまなパラ競技に挑戦する「慎吾とゆくパラロード」。15回目は「ブラインドサッカー(愛称ブラサカ)」としても知られる5人制サッカーです。アイマスクを着けた選手の頼りは「音」。鉛が入ったボールの音や仲間の声に耳を澄ませ、日本代表の加藤健人選手(34)と一緒にプレーしてみました。

 香取さんが額の汗をぬぐった。

紙面でも
 香取慎吾さんの5人制サッカー(ブラインドサッカー)体験は、3月27日付朝刊スポーツ面の「慎吾とゆくパラロード」でも、1ページを使って紹介します。

 《音や人の声を聞き分けながら、体を動かすのは大変。でもここが加藤さんの居場所なんだね。》

 加藤選手が静かにうなずいた。

 《高校で視力が低下し、自分が障害者になるなんて思いもしなかった。引きこもっていた自分を必要としてくれたのがブラサカでした。》

 加藤選手の生きる希望となったブラサカを香取さんは体験した。

 ブラサカはゴールキーパー(GK)は目が見える人や弱視の人が担い、フィールドプレーヤーの4人は条件を同じにするためにアイマスクをつける。香取さんも装着した。

 《これでどうやってパスするの?》

 加藤選手は言った。

 《僕らは音が頼りです。ボールは転がる音で把握し、パスは基本は人の声に向かって蹴り出します。》

 さらに試合ではピッチを3等分し、守備エリアはGK、中盤エリアは監督、攻撃エリアはゴール裏に立つ健常者「ガイド(コーラー)」がそれぞれ声で指示を出すという。

 《目の見えない選手4人と見えているGK、監督、ガイドの7人みんなでコミュニケーションをとり、守ったり攻めたりしています。》

 香取さんは早速、加藤選手が前方に投げたボールを、「シャカシャカ」という音を頼りに追いかけた。

 《何となく分かる。ここか。》

 加藤選手は次の指示を出した。

 《ここ、僕に向かってパス!》

 5メートルほどのパスはややずれたが、加藤選手は足で受け止めた。香取さんには一つの疑問がわいた。

 《試合は守備選手もいるよね? 攻撃側はどうやって察知するの?》

 鋭い質問に、加藤選手は答えた。

 《お互いに見えないので衝突の危険性がある。そこで守備選手は「ボイ(Voy=スペイン語で「行く」の意味)」と言って近づきます。》

 香取さんは、「ボイ、ボイ」と体を寄せてくる加藤選手を振り切ろうと試みた。だがシュートは打てない。

 《ボールの音、守備の「ボイ」、さらにゴール位置を知らせてくれるガイドの声にも耳を傾けないといけない。やることがいっぱい……。加藤さんすごい。引きこもっていた当時の自分がびっくりですね。》

 加藤選手は言った。

 《日本代表に呼んでもらい、国際大会にも出場できた。選手として必要とされるのはうれしいですね。》

 香取さんが自らの居場所について、とつとつと語った。

 《僕の居場所はこのエンターテインメントの世界。ファンがいて応援してくれるという場所でしか生きてこなかったから。学生の頃はつらいこともあった。何度もやめようと思ったこともある。でも好きだった。だから今も続けられている。》

 加藤選手が尋ねた。

 《自分が頑張るだけではやりきれない時もある。気持ちが沈んだ時、前を向くためにどうしていますか?》

 香取さんは少し考えて言った。

 《悪い時ほど一人だと思いがち。そんな時は人に聞いたりする。「今の俺、輝いてる?」って。人の温かさを感じられれば、上を向ける。》

 ブラサカは2004年アテネ・パラリンピックから正式種目になり、日本は東京が初出場。加藤選手もメンバー入りすれば初舞台となる。

 《ずっと手が届きそうで悔しい思いをしてきた。今回も出場切符は自力では取れなかったけど、勝負はしてみないと分からない。プレーする姿を多くの人たちに見せたい。》

 香取さんは言った。

 《これまでの経験が日本のブラサカの歴史には必要だったのかも。そう思えるよう結果を出して欲しい。観戦する時の応援は静かに、ゴールを決めたら大声で喜んでいい?》

 加藤選手は笑顔で答えた。

 《もちろん。僕らとともに観客も一つになって試合をつくっている。一体感は感じられる。見ている人にも楽しんでもらえるはずです。》(榊原一生)