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 このコラムでは、あなたに知っておいてほしいカラダや性の話をつづっています。

 仲の良い女子高校生2人が、僕のクリニックを受診しました。「最近、おりものが気になる」というのが2人の訴えでした。

 2人ともセックスの経験があるということから、いつものように性器クラミジアと淋病(りんびょう)の検査を実施。結果、2人からクラミジアが検出されました。

 ざっくばらんなやりとりが僕のクリニックの特徴ですから、「いつ、誰とセックスしたか」と尋ねると、驚くことに2人の相手は、近隣の同じ男子高校生だということがわかりました。仲が良いからと言って、誰とセックスしたかなんて話すようなことはしないものなのですよね。

性感染症はあっというまに広がる

 僕が全国に性教育の講義に出掛けたときに、しばしば行うパフォーマンスをご紹介しましょう。まず僕は、おもむろに生徒の間に入って行って3人と握手をします。そして、こう促すのです。「今、僕と握手した人は、起立しながら、周囲の3人を選んで握手して下さい」と。

 これを繰り返してもらうと、会場の何人が起立することになるかわかりますか? 3の累乗です。3×3×3×3×・・・・・という具合です。4巡目で81人、5巡目ともなると200人を、6巡目には700人を超えるのですから、会場内はあっという間に全員が起立してしまう勢いです。

 うるさ型の生徒は前列に並ばされることが多いのですが、彼らにこのパフォーマンスを促すと、「俺は嫌だ!」というような態度を示す生徒がいますが、これも受け入れます。

 ある程度のところで、「実は」と断って重々しい態度でこう続けます。「僕はクラミジアに感染しているのだ。そんな僕が3人とセックスしたと考えてみて欲しい」と。

 もちろん、これは講演会でのパフォーマンスですし、握手で感染が拡大することはないと説明はしますが、「性感染症のネットワーク」はあっという間に作られてしまうことを生徒たちに知らせたいのです。

 次に僕がやることはと言えば、100均で購入したビニール製手袋を使うこと。先ほどと同じように、握手をしても感染の広がりを食い止めることができます。生徒の誰もが、コンドームを使うことの意義を理解できます。

 「俺は嫌だ!」と抵抗していた生徒はどうでしょうか。接触がないのですから、感染とは無関係であることを伝えます。「セックスをしない」というのも、性感染症予防としては大切な選択肢なのです。

パートナーの感染を知っているのと知らないのとでは…

 僕の手元に「異性間性交におけるHIV(エイズウイルス)感染率」という興味深いデータがあります。

 それによると、すでに梅毒や性器ヘルペスなどの性感染症になっている人では、そうでない人に比べてHIVに感染する確率が高いというのです。梅毒/ヘルペスの場合は2.5倍、尖圭コンジローマの場合には11.4倍の感染率でした。性感染症を早期に発見、治療することが、HIVへの感染予防につながるのです。

 コンドームについてはどうでしょうか。「エイズ予防にコンドームを!」が強調されていますが、コンドームなしの性行為での感染率を1とすると、常に使用されていても0.2倍の感染率です。100%完璧な予防法にはならないわけです。もちろん、コンドームを着けないよりも着けた方がいいに越したことはありませんが……。

 さらに興味深いのは、「相手の感染を知らない」でセックスが行われた時のHIV感染率を1とすると、「相手の感染を知っている」場合には感染率が10分の1になることです。リスクを知っていればコンドームをよりきちんと使用できるということですね。

「相手を知る、自分を語る」ことの大切さ

 このような結果を踏まえて、お付き合いをしている人がいる若い女性患者さんに次のような問いかけをすることが日常です。「彼にはセックスの経験があるの?」と。大概は、「そんなこと聞けないし、聞きたくない」と答えます。

 僕の返答は「そんなことでは、自分を守れないよ」。「ところで……」と僕は続けます。「あなたは、彼のどんなところにひかれたの?」と。彼のやさしさ、賢さ、思いやりのあるところ、スポーツマン、格好良さなどなど、これでもかと挙げてきます。

 なので僕は「その魅力についてだけれど、あなたと出会ったことで突然作られたのだろうか」と問いかけます。「彼が、どのような家庭で生まれ、育てられたか。学校で出会った友人、クラブ活動。異性との出会いもあったろう。ひょっとしたらファーストキスも。そうこうしているうちにあなたと出会った。過去の彼の体験のすべてが、彼の魅力を作り上げたんじゃないだろうか」と。

 相手が、そして自分が、それまでにどんな性体験をしてきたか。「相手を知る、自分を語る」ことが、性感染症予防の近道であることをぜひ知っていて欲しいと願います。

北村邦夫

北村邦夫(きたむら・くにお)

1951年生まれ。産婦人科医。自治医科大学医学部一期卒。リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の向上などをめざす一般社団法人・日本家族計画協会理事長。同協会市谷クリニック所長。(http://www.jfpa-clinic.org/) 予定外の妊娠の回避や、性感染症予防の啓発に力を入れている。著書に「ピル」(集英社新書)、「ティーンズ・ボディーブック(新装改訂版)」(中央公論新社)など。