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 新型コロナウイルスの感染拡大とともに、マスクが品薄状態になって2カ月余り。店頭ではめったに手に入らず、備蓄が尽きそうな医療機関も出ています。マスクの増産・供給は進んでいるの? そもそも着用は絶対必要なの? 「#ニュース4U」のLINEに寄せられた市民の様子を紹介しながら、一人ひとりの行動のヒントを探りました。

拡大する写真・図版朝日新聞デジタルのフォーラムアンケート

くしゃみで舌打ち 過敏では

 「#ニュース4U」に集まった声の一部を紹介します。

●くしゃみしただけなのに

 マスクを入手できず、困っています。花粉症でくしゃみをしただけなのに、電車で隣に座っていた方が「チッ」という舌打ちとともに立ち上がって、別の車両へ移動していきました。なんだかとても悪いことをしたような気持ちになりました。(神奈川県・30代男性)

●マスクに対して過敏では?

 マスクを備蓄していたので困ってはいませんし、電車に乗るときなど人が密集しているところでしか装着しないので、残量の減りも少ないです。マスクにどれほどの効果があるのかも専門家で意見がわかれているようですし、マスクに対して過敏な気がしています。(東京都・40代男性)

拡大する写真・図版ドラッグストアの前にはマスクを求めて開店前から長い列ができた=2020年3月6日午前9時9分、さいたま市大宮区、川村直子撮影

●ガーゼもゴムも品薄

 使い捨てマスクを毎日洗って使っています。マスクを手作りしようと材料を調達に行ったら、ガーゼ布地は品薄でゴムは品切れ。薬局にもなく、サラシで代用しようかと思っています。使い捨てマスクは電車通勤の夫に使ってもらおうと思っているのに困ってしまいます。(神奈川県・50代女性)

●肌触り最高の手作りマスク

 花粉症用にだいぶ備蓄がありましたが、いつまで入手できないかわからないので、妻が自宅でマスクを作っています。耳あてのゴムの入手もかなり困難でしたが、なんとかなったようです。成人した子どもたちが赤ちゃんの頃に使っていたガーゼのハンカチを使い、肌触りは最高です。(千葉県・50代男性)

●接客のバイト先も備蓄わずか

 大学生です。アルバイト先では接客業のためマスクは必須だと言われ、1日に1枚支給されていました。しかし、そこも十分な備蓄があるわけではないようで、先日から「自宅にあるなら自分の分はそこから持ってきて使ってほしい」と言われました。ちなみに父はバンダナ、母はガーゼハンカチを代用しています。(滋賀県・20代女性)

●外出控え使用回数減らす

 マスクを蓄えていても数が限られているので、使用回数を減らそうと外出をできる限り控えています。ガーゼをマスクの代わりにしようと思ってもドラッグストアで品切れになっていて、なけなしのアイデアも役に立たない始末。今後どうなることかと、ただ指をくわえて待つことしかできないのが現状です。(兵庫県・40代女性)

2倍に増産、でも注文は3倍

 メーカー各社は1月以降、マスクを24時間体制で増産しています。しかし買い占めによる品薄がさらなる品薄を呼び、品不足が続いています。業界団体は「増産しているが、消費者の買う勢いの方が強い」と頭を抱えていて、いつ品薄が解消されるか見通しは立っていません。

 製造大手のユニ・チャームは1月中旬以降、平時の2倍となる月1億枚を生産。しかし注文は平時の3倍といい、「作っても作っても足りない状況」(広報)といいます。

拡大する写真・図版シャープが三重工場に導入した使い捨てマスクの生産設備=同社提供

 同社も含め、国内の2月の生産量は月4億枚でしたが、増産や国による生産設備への補助金もあり、3月は月6億枚を超える見込みです。しかし、小売店などからの注文は、週で5億~6億枚にも達しています。

 政府の呼びかけを受け、繊維や薬品を手がける興和(名古屋市)は、洗って繰り返し使えるガーゼマスクの増産を開始。3月中に1500万枚、4月に5千万枚の供給をめざします。早川卓宏・取締役常務執行役員は「使い捨てマスクの材料の不織布が手に入らない状況。入手可能なガーゼで代用したい」と話しています。

 異業種からの参入も。電機大手のシャープは政府からの補助金を受け、液晶パネルを生産する三重工場(三重県多気(たき)町)のクリーンルームにマスクの製造設備を導入。まず3月中は1日15万枚、いずれは1日50万枚の生産をめざすとしています。

 マスク不足の要因の一つには、製造ラインの中国依存があります。日本衛生材料工業連合会によると、2018年度に国内へ出荷されたマスクは、一般用や医療・産業用も含めて55億枚。うち44億枚が海外産で、その85%は中国産でした。担当者は「中国での新型コロナウイルスの感染拡大で、日本へ輸出される分が減った」と説明します。

 最近は、小売店やメーカーのみならず、同会にも消費者から問い合わせがあるそうです。担当者は「国内各社は増産しているが、需要に応え切れていない。危機感をもつ消費者の購買力の方が強い状態です」。病院でもマスク不足が伝えられています。「医療用マスクは専門の卸業者が担っていて、家庭用マスクとは全く別ルート。ただ、病院でも需要が増えているため足りなくなっている」と話しています。

 また、買い占めや転売は政府が禁止していますが、「趣味的に購入し転売している人や事業として転売するプロもいるようだが、実態はわからない」(担当者)といいます。(江口英佑)

他人への感染は防ぐが

 新型コロナウイルスは、感染者のせきやくしゃみなどで飛ぶつばや鼻水のしぶきで広がる「飛沫(ひまつ)感染」をします。マスクはしぶきが飛ぶのを抑え、他人に感染させるのを防ぐのに役立つものの、ウイルスは隙間を通り抜け、自分を感染から守ることは難しいと考えられています。これはインフルエンザでも同様です。

 世界保健機関(WHO)はマスク着用について「健康であれば、新型コロナウイルス感染が疑われる人をケアするとき」「せきやくしゃみの症状があるとき」と呼びかけます。マスクが有効なのは「アルコール消毒液やせっけん水などでしばしば手洗いをする場合に限る」という見解です。

 日本の厚生労働省も一般向けのQ&Aで「マスクは、せきやくしゃみによる飛沫及びそれらに含まれるウイルスなど病原体の飛散を防ぐ上で高い効果を持つ」とし、せきやくしゃみなどの症状のある人は積極的に着用するよう呼びかけています。

 しかし、予防のためのマスク着用については「混み合った場所、特に屋内や乗り物など換気が不十分な場所では一つの感染予防策と考えられる」としつつ、「屋外などでは、相当混み合っていない限り、マスクを着用することによる予防効果はあまり認められていない」とややあいまいな言い回しです。

病院で在庫尽きかけ

 実際には、街はマスクをする人たちであふれています。マスク着用を要請される場合もあります。

 たとえば大学入試。名古屋大は2月下旬の試験(前期日程)の前に受験生向けのサイトで、新型コロナウイルス感染症などの感染予防や体調不良者への対応として、受験生に試験会場にマスクを持参、着用するよう依頼しました。多くの受験生がマスクを着用しました。

 同大学入試課は「着用を義務付けたわけではないが、多くの受験生が集まる試験室での感染リスクを考えました。また、仮に(新型コロナウイルス感染者でなくても)体調不良により、せき込んだりする受験生がいた場合でも、本人や他の受験生がマスクを着用していれば、動揺が少しでも減り、試験に集中できるのでは、とも考えました」と話します。

 マスクをすると病人扱いされることが多い欧米と違って、アジアではマスクをする「文化」もあるのでしょう。ただこうした「マスク依存」が、世界的なマスク不足を招いているとの指摘もあります。

 深刻なのは医療機関です。神奈川県の病院団体の役員をしている窪倉孝道医師は「病院のマスク在庫が尽きかけています」と話します。窪倉さんの話では、県内の医療機関にアンケートをしたところ、3月上旬の時点で「医療用サージカルマスクや高機能マスク(N95)が1~2週間で切れる」と答えた病院が5割を超えていたそうです。

 「その後も事態は切迫しています。一般の方が電車や人混みに入る時の『マスクをつけたい』という気持ちも理解できますが、患者さんに接している私たちは、何としても院内感染を避けなければなりません。マスクのニーズは大変高いのです。行政機関や業者にも掛け合っていますが、せめてマスクの買い占めなどはやめてほしいです」と話します。

 全国マスク工業会、厚生労働省、経済産業省、消費者庁も連名で「現在、予防用にマスクを買われている方が多いですが、感染症の拡大の効果的な予防には、風邪や感染症の疑いがある人たちに使ってもらうことが何より重要」と呼びかけています。

「本当に必要とする人へ」

 WHOは2月27日に出した見解で、医療関係者に十分なマスクや手袋が行き渡らない状況について「感染者の増加だけではなく買い占めや買いだめも一因」と指摘しました。無症状の人がマスクを着用することは「価格高騰や流通網への負担となる」「誤った安心感につながり(手洗いなど)本当に大切な予防策がなおざりにされる」と強く戒めています。

 米国の医務総監も2月29日、「マスクを買うのをやめて! 一般の人の新型コロナウイルス感染予防には効果的ではありません。医療従事者が患者さんのケアをするとき入手できないと、彼らや社会のリスクが増します」とツイートしました。

 とはいえ、今はワクチンもなく、無症状の人からの感染が広がる実態があります。ロイター通信によると、もともと「マスク文化」のないフランスでも警察官の労働組合が「マスクと手袋の支給がなければストを起こす」と政府に訴えています。

 新潟青陵大の碓井真史教授(臨床心理学)は「マスクの感染予防効果が、低いとしてもゼロではないとすると、安心のためや周りから変な目で見られないようにマスクを着用したくなる気持ちは理解できます。しかし、今は平時ではありません。過剰な安心を求めてマスクを買うのはやめ、本当に必要としている医療機関や医療従事者にマスクが行き渡るようにしたほうがいい。そうすることで社会としての安全性が高まります」と話します。

 また「ただ、そう言っても不安を感じる人にはこの理屈は通じないでしょう。そのためにも、誰かとつながることで、ストレスを減らしたり不安を分かち合えたりする仕組みが社会の中に必要です」と付け加えています。(勝田敏彦)

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