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 「僕たちの関係を壊す気なのですか」

 こう迫ってきたのは高校1年生Cさんの彼氏でした。付き合って間もない二人の間に、いったい何があったのでしょうか。

 きっかけは、Cさんの受診でした。コンドームは使っていたものの、セックスの後に、何となく不安になったというのです。妊娠というよりも、性感染症への不安でした。

 いつものように、性器クラミジアと淋菌感染症(淋病)のチェックをすると、クラミジアが検出されたのです。初めてのセックス経験だったCさんのことですから、僕は何の疑問も感じることなく、「彼氏からだな!」と伝えたのです。

 Cさんからは、「二人とも初めての経験なのに、そんなことってあるのですか」と尋ねられ、僕からは、次回彼と一緒に来るように促しました。

 その彼から僕に向けられた言葉が、「僕たちの関係を壊す気なのですか」だったのです。

 「僕たちは、二人とも初めての経験なのですよ。病気なんかもっているはずないじゃないですか」が彼の言い分。長年にわたる経験から、僕は落ち着き払ってこう問いかけたのです。

 「ねえ、君、オーラルセックスの経験もないか?」と。彼からの僕に対する攻撃は、この言葉でなくなりました。「ある」というのですから・・・。

若い世代には当たり前になった口腔性交

 オーラルセックス(口腔(こうくう)性交)とは、性器を口や舌で刺激することです。淋菌感染症、クラミジア感染症、ヘルペス感染症、梅毒といった性感染症は、こうした行為でもうつります。「エイズ予防にコンドームを」というメッセージは声高に叫ばれ、周知されていますが、口腔性交についての情報はあまり提供されていません。

 アダルトサイトなどでは、こうした口での行為を映した映像が当たり前のように流れています。これに影響されない若者は皆無ではないでしょうか。

 実は、そんなこともあってか、わが国の性感染症の拡大要因のひとつに、口腔性交の一般化を挙げる専門家は少なくありません。

 以前、厚生労働省からの研究費で「日本人の性意識・性行動調査」を実施したことがあります。「口腔性交とは、男性の性器あるいは女性の性器を口で刺激すること」と定義した上で、「この1年間で、口腔性交の経験があるか」と聞いたところ、10代、20代の女性では80%以上が「している、したことがある」と回答していました。口腔性交が、若い世代にとって極当たり前の行為になっていることがわかります。「していない」という方以外は、性感染症のリスクがあるわけです。

 一方、口腔性交を「毎回している」「時々している」「ほとんどしていない」と回答した方に対して、「口腔性交の際、性感染症を予防するために、コンドームを使うか?」と尋ねると、80%を超える女性が「まったく使わない」と回答しています。これでは性感染症予防が徹底されているとは言えません。

 僕自身は、「口腔性交にもコンドームを!」と訴え続けてきました。味付きというべきか、フレーバー付きというべきか、口腔性交を目的としたコンドームが売られています。チョコレート味やストロベリー味など。そんな用意周到さが今のセックスには求められています。

 繰り返しになりますが、セックスを行う前には、二人が責任をもって検査を受けましょう。コンドームなしの口腔性交が日常化しているのであれば、時には咽頭(いんとう)検査を行う必要もあります。

 その結果、「陽性(+)」と出たら治療を。「陰性(-)」となったら、同意さえあれば「何でもあり!」。

 そして、妊娠を望まないのであればピルなど確実な避妊法と、性感染症予防にコンドームをお忘れなく! それが「幸せのセックス」の近道なのです。

北村邦夫

北村邦夫(きたむら・くにお)

1951年生まれ。産婦人科医。自治医科大学医学部一期卒。リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の向上などをめざす一般社団法人・日本家族計画協会理事長。同協会市谷クリニック所長。(http://www.jfpa-clinic.org/) 予定外の妊娠の回避や、性感染症予防の啓発に力を入れている。著書に「ピル」(集英社新書)、「ティーンズ・ボディーブック(新装改訂版)」(中央公論新社)など。