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 新型コロナウイルス感染症についてはまだわかっていないことがたくさんあります。ウイルスに感染したことが確認された人のうちどれぐらいの割合の人が亡くなるか(致命割合)についても、各国で数字が異なります。人口中の高齢者の割合、医療事情、検査体制などに影響されるからです。

 本来は、刻一刻と状況が変わる段階で致命割合を計算する意義は乏しいです。感染が拡大している最中は分母の感染者数が増えていく一方で、分子の死亡者数にはこれから亡くなる人は数に入っていません。検査体制が充実して把握される感染者数が増えると致命割合は下がりますし、患者さんが増えて軽症者にまで検査する余裕がなくなると致命割合は上がります。

 とはいえ、何らかの目安にはなるでしょう。2020年3月31日の時点で、全世界における新型コロナウイルスに感染したと確認された人の数は約80万人、死亡者数は約4万人、致命割合は5%ぐらいです。イタリアやスペインといった国では患者数が多すぎて医療事情が悪化し、万全の治療ができていれば助かったはずの人たちが亡くなって致命割合を押し上げています。

 日本の致命割合は感染者数約2000人、死亡者50人強、致命割合は3%弱です。日本では高齢者の割合が高いですが、医療事情はかなり良いほうです。検査数は諸外国と比較すると少なく、捕捉されていない軽症者がいると思われます。もし検査をもっとたくさん行うと、分母(感染が確認された人の数)が増え、致命割合は下がるでしょう。

 全数検査がなされたダイヤモンド・プリンセス号では、確認された感染者数が712人、亡くなった方が10名、致命割合は約1.4%といったところです。クルーズの参加者は高齢者が中心であることを考えると、一般人口において十分な検査を行ったときの致命割合はこれよりは低いと思われます。とは言え、致命割合が仮に1%だとしても、集団のほぼすべての人が免疫を持たない感染症ですので、なんの対策も行わなければ日本だけで何千万人もの人が感染し何十万人もの人が亡くなります。

 医療崩壊が起きれば十分な治療が受けられずにさらに多くの人が亡くなります。そして、新型コロナウイルス感染症に人手を取られて、平時であれば亡くならなかったはずの新型コロナ以外の病気の人も亡くなります。間接的ではありますが、新型コロナの流行による死亡ということになります。おそらく、イタリアやスペインではこうしたことが起こっています。いまはそれどころではないでしょうが、すべての死因による死亡率を例年と比べると新型コロナ関連死の程度がわかるでしょう。

 前回は、新型コロナウイルス感染症についてすでに多くの臨床試験が行われつつあることを紹介しました。楽観的な見方だと思われたかもしれません。安心していいわけではもちろんなく、医療崩壊しないよう努力を続けていく必要があるのです。

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酒井健司

酒井健司(さかい・けんじ) 内科医

1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。