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 売れない恋愛漫画家から警察官へ――。千葉県警成田署の山崎直樹・巡査部長(38)は、かつての経験を生かし、県警の採用活動も担う。「誰からも必要とされていない」と悩み続けた日々を超え、いま、警察官をめざす学生たちと向き合っている。

 小学生の頃から漫画少年だった。授業中にノートや机の隅に人気漫画「ドラゴンボール」のキャラクターを夢中で描いた。漫画家への憧れを持ちながら、高校卒業後は就職を見据えて服飾の専門学校に通った。

 20歳の夏。次々と就職を決める同級生を横目に、進路に悩んでいた。「やっぱり俺は漫画かな」。勇気を振り絞り、初めての原稿を小学館に持ち込んだ。

 5作目で「週刊ビッグコミックスピリッツ」の新人賞をとった。「さえない男子高校生の甘酸っぱい恋愛話でした」。数カ月後には担当の編集者がついた。しかし、デビューは遠かった。

 恋愛、スポーツ、ファンタジー……。どんなジャンルにも挑戦した。生活費を稼ぐため工場でアルバイトをしながら、毎週のように原稿を描いたが、「こんな漫画いらねえよ」と突き返される日々だった。「自分がいる意味って、何なんだろう」。段ボール2箱に詰め込んだ原稿は、200作を超えた。

 5年かけ、ラブストーリー「ピンクの天使」というタイトルの読み切り漫画でデビューを果たしたが、続ける気力はなかった。夢をあきらめ、茨城の実家に戻った。

 「人の役に立ちたい」。深い孤独の中から、いつしかそんな気持ちが芽生えていた。警察のほか、葬儀屋や結婚式場など職種を問わず面接を受けた。

 県警に採用され、「えりを正して生きてきたわけじゃない。やっていけるかな」と不安もあった。元バンドマンやバックパッカーなど個性あふれる仲間に出会った。「いろんな過去があっていいんだ」。自分が認められた気がした。

 初任地の柏駅前交番では、万引き事件の現場の図面をさっと描いてみせた。「お前やるじゃん」と褒められ、自信がついた。本部の広報県民課に配属され、ホームページやポスター作りを任されるようになった。「経験が意外なところで味方してくれました」

 2018年秋に赴任した成田署では、警務課で捜査車両や制服の管理をしている。日角毅副署長は「裏方の仕事も手を抜かず、信頼している」と評価する。

 力を入れるのが採用活動だ。警察官を目指す学生から個別に話を聞き、疑問に答える。警察官の堅いイメージや警察署への入りづらさから、「自分はやっていけるのか」と揺れる学生が多いという。

 そんな相手には、こう伝える。「色んな個性が組織を強くする。どんなに回り道をしても、あなたを必要とする場所は絶対にあるんだよ」。昔の自分にも聞かせたいことだ。(福冨旅史)