緊急事態宣言、暮らしどう変わる 学校、介護、交通は

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 新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく初めての緊急事態宣言が、東京や大阪、福岡など7都府県に出された。外出自粛や施設の使用停止要請で、私たちの暮らしはどう変わるのか。

学ぶ機会、どう守る

 「宣言が出れば、8日以降は登校日も設けられなくなるかもしれない」

 5月の大型連休までの休校を決めている東京都新宿区。ある区立小学校の校長は、7、8日に分けて設定していた登校日を急きょ7日に集約した理由を、こう話す。朝から夕方にかけて各1時間、四つの時間帯を設定。一度に登校する子どもの数ができるだけ少なくなるように振り分け、ランドセルと手提げ袋を持参した子どもたちに、教科書や休校中の課題を渡した。

 週1回ずつ予定していた休校中の登校日も、実施できるかは見通せない。「学校のホームページにワークシートをアップしていくなど、自宅学習をどう支えていくか、検討している」という。

 宣言により、7都府県の知事は、住民の外出自粛や学校の使用停止などを要請できる。

 宣言を見据え、大阪市は7日、19日までとしていた市立小中学校の休校を5月6日に延長した。市教委担当者も「ネットの報道で知った」と言うほど突然の判断だった。これまでは休校中も、各小中学校で子どもたちが日中に教室で読書や自習ができるようにしてきたが、続けるには教職員の出勤が必要だ。今後については「宣言の内容を受けて協議する」という。

 福岡市は宣言を出す動きも受け、子どもの運動不足やストレス解消のため平日に行ってきた運動場の開放を、6日から当面中止とした。市教委の担当者は「市内でも感染者が急増し、状況が緊迫してきた。感染予防の意識を高めてもらう狙いもある」と話す。

 文部科学省が7日に公表した集計によると、全国の幼稚園、小中学校、高校、特別支援学校のうち、新学期も臨時休校を継続するのは約4割。7都府県の公立では89%にのぼる一方、他地域の公立では15%だ(いずれも6日午後9時現在)。大学・短大・高等専門学校も約8割(同日午後4時現在)が授業の開始を延期する。

 通常通り新学期が始まった地域と休校が続く地域があるなか、子どもたちの学ぶ機会の格差や、入試への影響はどうなるのか。

 7都府県の高校の授業開始時期が、その他の地域より1カ月も遅れることを心配するのは、全国高校長協会の萩原聡会長(東京都立西高校長)。「感染拡大が収束しない場合、来年1月にある初めての大学入学共通テストを実施すべきか、という話になる。受験生が住む地域によって不公平が生じないように、大学入試をめぐる会議などの場で文科省に必要な対応を求めていきたい」と話す。

 駿台教育研究所の石原賢一・進学情報事業部長は、新型インフルエンザが流行した2009年、最大2週間ほど休校になった近畿地方で、高校生の模試の成績が低下したデータをもとに、今回もそうした格差が生まれる恐れがあるとみる。「休校が続く生徒は、初めての大学入学共通テストに向けて何を勉強したらいいかわからない。自宅でも過去問を解いて備えられる私立大に、都市部の受験生が流れるのではないか」

 文科省は7日夜、臨時休校についての指針を改訂し、緊急事態宣言の対象地域での休校の考え方を示した。知事から学校施設の使用の制限や停止の要請があれば、学校設置者は臨時休校とすることを記載した一方で、子どもの家庭学習の支援や心のケアへの対応を求めている。萩生田光一文科相は7日夕の臨時会見で「必要最小限度の登校日の設定や分散登校の実施、運動機会の確保のため校庭や体育館の開放などを進めていただく」と述べた。

判断割れる保育・介護

 くらしに密接にかかわる保育園や介護施設は、自治体や施設の判断でサービスの縮小や休止に踏み切るところと、運営を継続するところに分かれそうだ。

 緊急事態宣言の対象地域の保育園について厚生労働省は7日、保護者が家にいることが可能な場合は登園を控えるなどし、縮小して開所を続けることを検討するよう各都道府県に通知した。園内で感染者が出た場合や地域で感染が拡大しているような状況であれば臨時休園の検討を求めた。ただ、仕事を休めない家庭の子どもにも保育が行き届くように対応を検討することもあわせて求めている。

 東京都渋谷区は6日に臨時休園の方針を発表。例外として、保護者全員が警察官、消防官、医療従事者の場合は区立保育園のうち6カ所で子どもを受け入れるという。仕事が休めないひとり親世帯など、どうしても保育が必要な場合も受け入れを検討するという。兵庫県川西市も、12日まで市立の保育園と認定こども園を原則休園とした。同市の担当者は「まずは感染拡大の防止が一番大切」とする。13日以降も19日までは可能な限り自宅待機を求めるという。

 原則開園を続ける自治体もある。大阪府吉村洋文知事は7日の会見で、保育園と高齢者施設について「本当に必要としている人が利用しているため、事業の継続をお願いしたい」と語った。保育園は医療従事者の利用も多く、医療を支援するためにも継続が必要との考えを示した。職員からは感染拡大の懸念から休園を求める声もあるが、「予防策を徹底して感染拡大を防いでほしい。預ける側も自宅勤務が可能な人は利用を控えてほしい」と語った。

 千葉市も休園までは踏み込まず、認可保育園を通じて保護者に登園自粛を呼びかけた。「保育園の機能の維持と、感染拡大防止の両面を踏まえ、休園はせずになるべく自宅でみてもらう」という。

 東京都世田谷区の担当者は「保護者からは保育園を『やってほしい』という声も、『閉じてほしい』という声も両方寄せられている」。首都圏のある自治体の担当者は「基本的には開園してもらう方向で検討中だ」としつつ、「政府関係者や知事の発言次第では判断を変える必要もある」。感染拡大の防止と、保護者への支援を同時に求められる中で「保育現場や自治体担当者の精神的負担が重い」とこぼす。

 介護サービスでは、デイサービスやショートステイの通所型や短期通所型の施設について、特別措置法に基づいて都道府県知事が使用制限などを要請できる。入所型の施設は影響を受けない見込みだ。

 厚生労働省は休業とする場合にも、生活に必要なサービスは訪問介護など代わりを確保することを求めている。スタッフが利用者の自宅を訪れてサービスを提供することも認めている。

 埼玉県新座市認知症の人のデイサービスなどを提供しているNPO法人「暮らしネット・えん」の小島美里代表理事は「利用者には認知症の一人暮らしや老老介護の人もいる。休止すると命に関わる」として、緊急事態宣言後もできる限りサービスを継続する方針だ。ただ、感染予防のため、通常は週2回の入浴介助を1回にしたり、利用人数をできる限り抑えてサービスを提供したりすることにしている。デイサービスの職員が自宅に訪問することも検討している。

 一方、東京23区のある介護老人保健施設は、来週13日から通所リハビリ(デイケア)を2週間休止することを決めた。施設は「地域に感染者が増え、病院併設の老健なのでリスクが高いと考えた」と説明する。

 東京都のある市の社会福祉法人は、1日約40人が通うデイサービスは、「三つの密」でないとは言い切れないとして、独居高齢者らサービスが不可欠な人にしぼり、1カ月間は1日数人まで利用者を減らす方針を、7日に家族らに伝えたという。

 急なサービスの縮小となれば、利用者の混乱は避けられそうにない。

交通インフラは継続

 鉄道や航空といった輸送サービスは、緊急事態宣言が出た後も営業を続ける。

 「緊急事態でも必要な輸送機能の確保に全力をあげる。鉄道は国民生活を支える重要なインフラだ」。赤羽一嘉国土交通相は7日の閣議後会見で、通常ダイヤでの運行を鉄道各社に求めた。間引き運転や終電の繰り上げを求めることは「検討していない」とした。

 新型コロナウイルス対策の特別措置法では、国から鉄道各社などへの減便の要請は想定していない。鉄道を強制的に止める規定はない。輸送能力の維持を求めるのが国交省の基本的な立場だ。運行本数を減らせば乗客の密度が高まり、感染リスクが高まる恐れがあるという側面もある。

 だが、宣言後はさらに人の動きが停滞しそうで、鉄道の利用者は減りそうだ。実際、感染拡大での乗客減少を受け、JR東海東海道新幹線のぞみ」の運行を3月以降減らしている。首都圏を営業エリアにするJR東日本の深沢祐二社長は7日の記者会見で「日々刻々状況は変わる。お客さまの動向をみながら考えていきたい」とし、利用客の動向次第では在来線の減便などを検討することに含みを持たせた。

 大阪府、兵庫県が営業エリアに入るJR西日本も、福岡県がエリアに入るJR九州も現時点では運行本数を維持する考えだ。今後、利用者が大きく落ち込めば、「電車の混雑が激しくならないかをみながら、運行本数を減らす可能性はある」(JR西日本)としている。

 航空機の運航も続くが、世界的な移動制限で全日本空輸日本航空国際線を中心にすでに大幅な減便を強いられている。宣言を受けて日航は7日夜、12日までの国内線の減便数を1日あたり約2割から44%に増やすことを決めた。全日空もさらなる減便を検討しているという。

 首都圏の大動脈である首都高速や大都市を結ぶ高速道路も、通常通りに使うことができる。ただ、サービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)の飲食店や土産物店は「各都府県の知事から求められれば休業せざるを得ない」(ある高速道路会社)。通常、SAやPAのトイレは商業施設と別棟になっているといい、通常通り使えそうだ。

 タクシーも営業を続ける。業界団体によると、在宅勤務の加速や夜の飲食の自粛で客が減り、通常より走っているタクシーは減っている。さらに、宣言が出ることで、担当者は「特に夜のお客はほぼゼロになるのではないか」とみる。

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