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 ソーシャルメディア全盛の中、早急に結論に飛びつこうとして、過激な意見に走ったり、デマの拡散に加担したりしてしまう――。感染が拡大する新型コロナウイルスについてもフェイク情報が出回りました。そんな今だからこそ、「ネガティブ・ケイパビリティ」という考えが注目されています。イギリスの詩人キーツが19世紀に提唱し、答えのない事態に耐えうる能力を指すそうです。なぜ今、「急がず、焦らず、耐えていく」ことが必要なのか。早くからこの概念に注目している作家で精神科医の帚木(ははきぎ)蓬生(ほうせい)さん(73)に、自身の臨床やフランス留学の体験も含めて語ってもらいました。

拡大する写真・図版作家で精神科医の帚木蓬生さんは、福岡県中間市でクリニックを開業している

許されぬ「分からない」

 ――ネガティブ・ケイパビリティに興味を持った契機を教えてください。

 「精神科医になって数年後の1985年ごろ。すべて分からないといけないと思っていた私は、無力感にさいなまれ始めたんです。全力で治療をしても治らない患者さんはいるし、治癒したはずの患者さんが、戻ってくることもあった。その際に論文を読んでいて、ネガティブ・ケイパビリティという概念を知りました。それから臨床が随分、楽になりました。効果が出なくても、踏みとどまり、見届けられるようになりましたから」

 ははきぎ・ほうせい 1947年、福岡県生まれ。東京大学文学部仏文科を卒業後、TBS入社。2年後、退社し、九州大学医学部を78年に卒業。精神科医としてギャンブル依存症などに取り組む。作家としては95年に『閉鎖病棟』で山本周五郎賞、2018年には『守教』で吉川英治文学賞など受賞多数。

 ――改めて、ネガティブ・ケイパビリティについて教えてください。

 「そもそも我々が『能力(ケイパビリティ)』と口にする際、想像するのは(肯定的な)ポジティブ・ケイパビリティです。才能や才覚、そして処理や解決の能力などのこと。一方、ネガティブ・ケイパビリティは、その裏返しです。生半可な知識や意味付けを用いて、未解決な問題に拙速に帳尻を合わせない。中ぶらりんの状態を持ちこたえるのです」

 「提唱者のキーツは、シェークスピアがその能力があったと指摘しています。だからこそ彼は、嫉妬や野心、愛憎といった人間の心のあやを描ききることができた。紫式部も、この能力があったと私は思います」

 ――ワクチン接種の是非や原発関係、そして新型コロナウイルスの感染拡大など科学的な知見を基にした冷静な判断が求められる場面でも、ネットを中心に先鋭的な結論に至る人が増えた。双方が極端に振れていて、議論をする共通の基盤さえ、失われている印象があります。

 「そうですね。僕は『インター…

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