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 新型コロナウイルスの流行が世界的に広がるなか、重症化して人工呼吸器が必要になる患者も増え、欧米ではどの患者を優先するか、死に直結する究極の選択が迫られている。日本ではいまの時点では人工呼吸器が足りない状況ではないが、前例のない危機への備えが必要、と専門家が考え方を提言にまとめた。

 3月末に公開された、米国の医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)で、米国の医師は、新型コロナの流行で医薬品不足は深刻だが、最も問題なのは人工呼吸器と指摘。「今後数週間で、米国の医師はこれまで直面したことのない決定を求められるだろう」とした。「どの患者につけるかを判断する委員会を『死のパネル』と非難する人もいるだろう。だが目標は、可能な限り多くの命を救うことだ」などとつづっている。

 日本でも感染がさらに拡大し、重症患者が急増すれば、人工呼吸器が不足する事態が起きうる。医療倫理を研究する医師や弁護士らのグループが3月30日付でまとめた提言は、こうした非常時には「緊急度に応じて治療の順位などを決める災害医療でのトリアージの概念が適用されうる。これまで経験したことのない、厳しい倫理的判断を求められる」とする。

 原則は、医学的適応と患者本人の意向から判断する。そのうえで、救命の可能性がきわめて低い状態の患者から呼吸器を外し、救命の可能性の高い別の患者につけることを許容するという考えだ。救急・集中医療の分野で使われる重症度指標を使って慎重に判断し、プロセスは適切に記録する。社会的地位や公的医療保険の有無などで順位付けはしないという。

「がんとは異なる考慮が必要」との指摘も

 提言をまとめた、東海大医学部の竹下啓教授(医療倫理)は「そんな事態になってほしくないが、日本でも患者を選択せざるをえないときがくるかもしれない。提言をたたき台に議論が深まれば、とつくった。自分だったらどうしてほしいか。患者の立場でも家族と話し合っておいてほしい」と言う。

 医事法などを専門とする慶応大の前田正一教授は提言について「議論を呼ぶ意義はあるが、がんなどの慢性疾患の場合とは異なる考慮が必要だ。無益性の判断も患者の意向の評価方法もコンセンサスが得られておらず、呼吸器の取り外しなどについて、この提言をもとに現場で判断するのは難しいだろう」と話す。

 提言は、生命・医療倫理研究会のページ(http://square.umin.ac.jp/biomedicalethics/activities/ventilator_allocation.html別ウインドウで開きます)で見ることができる。(編集委員・辻外記子