編集委員・石飛徳樹
映像の魔術師、大林宣彦監督が10日、82年の生涯を終えた。6歳の時に「ポパイの宝島」という1分の手描きアニメを作ったというから、映画作家歴は実に76年に及ぶ。その極めて多彩なフィルモグラフィーの中から、大林ファン歴40年の記者が最も愛する映画たちを紹介したい。
拡大する「尾道映画祭2018」の舞台あいさつで映画への熱い思いを語る大林宣彦監督=2018年2月23日午後9時12分、広島県尾道市、北村哲朗撮影
大林監督の映画作家歴を眺めると、大きく三つの時代に分けられる。8ミリや16ミリフィルムで撮っていた個人映画の時代(~1977年)、35ミリが中心になった商業映画の時代(77~2011年)、そして個人映画と商業映画を融合した新映画の時代(11~20年)だ。
個人映画とは、文字通り個人の資金で個人の主題を描いた自主製作の作品を指す。個人映画には、芸術志向が強すぎて難解な作品も多いけれど、大林監督の作品はとても面白い。それはすでに観客を想定していたからではないかと思う。
中でも抜群に面白いのが「喰(た)べた人」(63年)だ。ベルギー国際実験映画祭で審査員特別賞を受けた23分の16ミリ白黒作品。あるレストランで客たちが談笑しながら料理を食べている。セリフは一切聞こえない。客の中に新人の岸田森や草野大悟がいる。
途中から、客の食べっぷりが異様にがつがつしていることに気づく。不穏な空気が流れ始め、給仕係の女性が倒れる。手術台に運ばれるが、そこにいるのは医師と看護師ではなく、コックと給仕係。コックは女性の腹を切る。そこから次々料理が取り出され、客たちのテーブルへと運ばれる。
分類するならシュールレアリスムの作品ということになる。コミカルでありつつエロチックでもある。最後に、客たちの口から白い包帯が大量に吐き出される。大林監督が見た夢を具現化したものだ。包帯の山がフィルムに見えてくる。
妻の恭子プロデューサーによると、大林監督は亡くなる直前も、もうろうとした状態で夢を見ながら「ヨーイ、スタート!」「カット!」と言っていたそうだ。若い頃からずっと、夢でもうつつでも、映画のことばかり考えていたのだろう。
個人映画作家とCMディレクターという二足のわらじで過ごしていた大林監督は、40歳を前に「HOUSE ハウス」(77年)で商業映画に進出する。高校生だった私が初めて見た大林映画だった。7人の少女が郊外の家へ遊びに行く。その家は、かつての住人の女性が生き霊となって家と一体化しており、7人は次々と食べられていく。
とにかくぶったまげた。同じ年…
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