リーマン・ショック級か、1930年代の世界恐慌以上か――。新型コロナウイルスの感染拡大で急速に冷え込む世界経済をどう読み解くべきなのか。伊藤隆敏・米コロンビア大学教授は、今回のコロナショックを、「リーマン以上」としつつも、「危機の構造がまったく違う」と分析。さらに従来のセオリーとは異なる危機だと指摘する。どういうことなのか。感染拡大の中心地・米国ニューヨーク在住の伊藤教授にオンラインの取材で聞いた。
――ニューヨーク在住ですが、感染者数の伸びが少し落ち着いてきたと聞いています。そちらの状況はいかがでしょうか。
「ニューヨークで初めて感染者が確認されたのは3月1日でした。上旬までは『人ごと』という雰囲気でした。むしろ日本から米国に来る人が感染しているのではないかという目でみられていました。変わったのは3週間ほど前からです。感染者が増え、外出禁止令が出て食料スーパーと薬局を除いたすべての店は閉じました。今や公式統計では、平均100人に1人は感染しています。コロンビア大学でも大学関係者が亡くなり、哀悼を示す学長名のメールが送られてきました」
「もちろん健康維持のための散歩や食料品の買い出しで週に2、3回は私も外出していますし、犬の散歩などで歩いている人はいるので『ゴーストタウン』になっているわけではありません。しかし、街の雰囲気はこの数週間で一気に変わりました。確かに新規感染者数は『頭打ち』になってきたように見えますが、それでも毎日8千人から1万人が新規感染しています。急激に落ちるわけでもないだろうし、外出自粛を緩めると、おそらく第2、第3の波が来てまた増えるのではないか。7、8月まではこの状況が続くのではないかという声も出てきました」
――国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事が9日、今回のコロナショックで2020年の世界経済の成長が1930年代の世界大恐慌以来の危機になると指摘しました。
「世界恐慌と並ぶ、あるいはそれ以上になっていくかは現段階ではわかりませんが、2008年の米国発のリーマン・ショック以上の経済危機になるであろうとは考えています。ただ同時にリーマン・ショックと今回のコロナショックは危機の構造が違います。今回の危機では、まず需要側と供給側の両方にショックが起き、GDP(国内総生産)が大きく落ち込んでいます」
「生産・物流チェーンが寸断され、物流がストップし(=供給側)、人が出歩かず、消費が止まっていく。その結果として雇用や所得に影響(=需要側)が出てくる。米国の失業率の上昇のスピードもリーマンよりも速い。まだ問題は顕在化していませんが、企業の不良債権問題もこれから出てきます。一般的には実体経済へのショックによる収縮よりも、金融危機の方が伝播(でんぱ)が速いと考えられてきました。これほどのスピードで実体経済が先に収縮する危機はめずらしい」
――リーマン・ショックとは「伝播」の仕方が違うということですか。
「リーマン・ショックの当時…