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 バイオリンの世界的名器を生んだストラディバリが17~18世紀に活動したイタリア北部クレモナで16日、バイオリンの調べが響き渡った。新型コロナウイルス患者への治療の最前線となっている病院の依頼で、日本人バイオリニスト横山令奈さん(33)が病院の屋上から演奏した。医療従事者への感謝と、患者たちが再び音楽や芸術を楽しめる日が来るよう祈りを込めたという。

拡大する写真・図版イタリア北部クレモナで16日、白い病棟テントが見える病院の屋上で演奏する横山令奈さん(横山さん提供)

 横山さんは高校卒業後の2006年にクレモナに渡り、同地の音楽院で学んだ。クレモナにある「バイオリン博物館」で、数億円の価値がある展示楽器の音色を訪問者に聴いてもらう演奏会で、演奏を任されている。今回、病院側が地元の町おこし団体に声をかけ、「地元バイオリニストの顔」となっていた横山さんに、白羽の矢が立った。

拡大する写真・図版イタリア北部クレモナで16日、病院の屋上でバイオリンを演奏する横山令奈さん(横山さん提供)

 横山さんが16日夕、クレモナで製作された愛用のバイオリンを手に、約30メートルの高さにある病院の屋上に立つと、町のシンボルとなっている高さ112メートルの鐘楼が夕日を受けて浮かび上がった。住み慣れた美しい町の情景に感動する一方、足元に見える病院の敷地には新型コロナウイルスに感染した患者を隔離する白いテントが広がる。

 人口約36万人のクレモナ県では15日までの死者が872人に上り、感染者は5千人を超えた。感染拡大のスピードは落ち着いてきたが、横山さんの演奏中にも救急車がサイレンを鳴らし、病院に到着した。

 演奏が始まると、防護服姿の医師らが窓から身を乗り出して、バイオリンの音色に聴き入った。横山さんはビバルディの「四季」や映画「ニュー・シネマ・パラダイス」で使われたエンニオ・モリコーネの作品などを演奏した。曲が終わるたびに大きな拍手と歓声が上がった。

拡大する写真・図版イタリア北部クレモナの病院の屋上で16日、バイオリンを演奏する横山令奈さん(横山さん提供)

 横山さんは演奏後、朝日新聞の電話取材に「演奏家は、人の心に直接語りかけられるからこそ、いま何ができるのか、考えてきた。マイナスなことを考えてもきりがないが、生の音楽が人の心に響き、少しでも勇気を持ってもらえたらうれしい」と話した。(ローマ=河原田慎一)