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 小学生の将来就きたい職業ランキングで「ユーチューバー」が上位であるとききます。

 しかし、もっと大きくなった子どもに多い回答は、もしかしたら「わからない」かもしれません。就職や進学を真剣に考える年頃であればあるほど、「わからない」という回答では、心細いですね。でも私の臨床現場で出会う子どものほとんどが、「わからない」といいます。考えたこともなかったのでしょうか。

 現在のいわゆる大人の世代が受けてきた教育と比べて、現在の学校教育は「キャリア教育」を重視しています。小学生のうちには地域のパン屋さんや工場などの職場を見学に行ったり、中高学生になると職場体験をしたり、大学生になるとインターンシップという制度もあったりします。昔よりも、職業に関する情報も体験も増えているはずなのです。

現実逃避の結果、将来が「わからない」 

 なのに、なぜ将来何になりたいのか「わからない」のでしょうか。きっと多くの要因が関係していると思われますが、私からはこのコラムで「ゲームやネットなどで時間を費やし、現実逃避して、将来について考えることを避けているからではないか?」ということを主張してみたいと思います。

 前回までに、子どもがゲームやネットざんまいになっている時に、改善策のひとつめとして、ゲームやネットの現状を子どもと共有した上で、将来このままだとどうなりそうかをイメージさせる手順についてお伝えしました。今回は二つめの手順である、「子どもに、どんな人生を送りたいのか、成し遂げたい夢を問う。」について解説します。

2.子どもに、どんな人生を送りたいのか、成し遂げたい夢を問う。

 子どもが人生で何を成し遂げたいのか、どんな人生を歩みたいと思っているのかがわかれば、親としては、それを応援してあげられます。子どもも、多少の挫折があっても、その芯がしっかりしていれば、ブレずに突き進んで行けるはずです。

 「どんな人生にしたいか」については、具体的な職業名である必要まではありません。たとえば、「人から喜ばれることが好きだから、そういう人間になりたい」とか、「自分はみんなでわいわいというよりは、ひとりでコツコツ、真理をつきつめたいんだ」とか、「直感がさえるタイプだから、なにか芸術系のことがしたい」「人にすごいねーって言われたい」などでよいでしょう。

拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

人生に大きなテーマを

 職業名も大事ですが、こうした人生に対する大きなテーマを持っていることの方が、高齢化社会では大切です(職業生活は大事ですが、定年は案外早く、限りあるものですね)。大事なのは子どもが「自分はこれを大事にしていきたい。それに進むためなら、やる気が出るし、幸せだ」と思えるぐらい好きなことかどうかです。これをしっかり引き出して親子で共有しておけば、子どもは生き生きと毎日を送れるでしょう。「なんのためにこんな受験勉強しなくちゃいけないんだ!」とイライラしても、「あ、そうか、ぼくはこういう人生を送りたいから、そのために必要なことなんだ」と理解できれば、ずいぶん心の持ち方が変わるでしょう。

 話をゲームざんまいの子どものことに戻しますと、ゲームざんまいで、将来について考えるのを避けていた子どもが、親からの「どんな人生にしたいの」という問いかけから、考える時間をもつようになり、それで例えば、「そうか、ぼくの好きなことは、人から喜ばれることなんだ。」と気づくことができれば、人生の逆算をし始めるかもしれません。

 「そうか、ぼくは最終的には誰かの命を救う職業に就きたい。だとしたら、今できることはなんだろう。」そう考えると、この子どもの毎日はゲームで埋め尽くされている場合ではありません。人生が主体的になる瞬間です。

 しかし、これはあくまで、すんなりうまくいくケースです。

 実際には「どんな人になりたい?どんな人生を送りたい?」と尋ねるだけでは、多くの子どもは「わからない」と答えにつまってしまいます。私は、臨床現場で会う子どもたちにこう質問しています。

なりたくない像を問うのもOK

 「反対に、ああいう人だけにはなりたくないとか、こういう人生だけは嫌だっていうのある?」

 こういう言い方ですと、案外出てきます。「えらそうな父親みたいにはなりたくない」とか「人に迷惑をかけるような人間にはなりたくない」とか「人を裏切るのだけは嫌だ」などです。これをきっかけに、話が展開できます。「じゃあどんな男性になりたい?えらそうでなくて・・・・?」「人に迷惑をかけるってどんなこと?」「人を裏切らずにどんなふうにつきあっていきたい?」イメージがはっきりしてきます。

 「あんなふうな人生送りたいなあって憧れるようなモデルはいる?」

 こういう質問もいいでしょう。芸能人でも、身近な人でも、モデルがいることで、よりリアルにイメージできます。「芸能人みたいにお金持ちになって、いい車に乗りたいんだ」もいいでしょう。「どうやってお金持ちになろうか」という質問をすれば、それに到達するためにすべきこともイメージが広がります。「とにかくモテたいんだ」「きれいになりたい」。こんなシンプルなものでもいいでしょう。シンプルな欲ほど原動力は強いものです。

 決して否定せず、「よし、それをかなえるためには、どうすればいいかな」とのっていきます。ここで親子で十分味わうことが大事です。

 ゲームやネットから一時的にでも離れて、遠い未来に思いをはせる。よい時間ですよね。進路相談をするわけではないですし、それから「勉強しなさい」と言われるわけでもない、将来の夢を描く時間。このような時間を大切にしていけば、子どもはゲームやネットよりも、「一度きりの人生をどう描くか」について考える方が楽しくなるでしょう。

 本来、人生はゲームやネットより楽しいものなのです。

 さて、次回は三つめの「希望する人生に近づけるために、ゲームとの付き合い方を決めさせる。」についてご紹介します。

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。