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 兵庫県内で生産される高級和牛「神戸ビーフ」の価格が下落している。新型コロナウイルスの感染拡大で飲食店の売り上げが落ち込み、食用に処理された枝肉の価格は今年3月、5年ぶりに1キロ3千円を切った。生産者は赤字を余儀なくされているが、農林水産省の和牛業界への支援策には業界から異論が出ている。

 「120万円で買った子牛を育てて神戸ビーフとして出荷しても、売値は同じ値段にしかならない」

 神戸ビーフを生産、販売する太田家(神戸市兵庫区)の太田哲也社長(45)は嘆く。新型コロナ禍で外国人観光客が激減。観光客目当てで神戸ビーフを提供してきた飲食店は営業を休んだり、客足が1割に落ち込んだりしているという。

 生産者らでつくる神戸肉流通推進協議会によると、神戸ビーフの今年3月の枝肉価格は1キロ2853円(1頭分で約120万円)で、1月の3410円から2カ月連続で下落。ピークだった2018年4月は4708円で、約6割に下がっている。

 神戸ビーフは、県内で生産された2~5歳の但馬牛のうち、霜降りの基準などを満たして認定されたもの。但馬牛は生後約9カ月で取引され、農家で肥育される。現在出荷されている神戸ビーフは、今夏予定されていた東京五輪の特需をあてこみ、子牛価格が約100万円に高騰していた時期のものだ。しかし、1頭の枝肉価格は約120万円と急落。「2年間のえさ代や人件費は40万~50万円にのぼる。1頭売るごと赤字になる」と太田社長。

 神戸ビーフを扱う老舗小売店も、毎月3千万円ほどあった売り上げが、2月は2%、3月は25%ほど落ちた。自宅でのお祝いや贈答目的の購入が減ったという。小売店の社長は「外出控えに加え、景気悪化で財布のひもがきつくなった。4月以降さらに悪くなりそうだ」と話す。

国の支援策 不評

 消費の冷え込みを受け、自民党農林部会は「お肉券」配布の構想を打ち上げたが、「族議員による利益誘導」といった批判が上がり頓挫。3月末の衆議院農林水産委員会では、野党議員から高級和牛の学校給食での活用案が出た。農水省は、和牛肉の在庫が積み上がっている卸売業者への冷凍保管の経費支援や、生産経費抑制に努めた農家への出荷1頭ごと2万~5万円の支給を決めた。

 こうした救済策に、老舗小売店の社長は「なんで和牛だけ特別扱いやねん。業界としては大歓迎だが、自由経済下ではいい時も悪い時もある。国のカネをあてにするのは筋違い」と疑問を投げる。太田社長も「国の支援は族議員の力のおかげだろうが、中小企業にはあまり関係ない。一番大事な生産農家を中心に救済するべきだ。そもそも景気が良くならなければ、肉を食べてくれない」と厳しい。

消費者は好意的

 ただ、和牛の価格下落は消費者には好意的に受け止められているようだ。神戸市内のスーパーの小売店は、和牛販売が前年より1割ほど伸びたという。同店は「コロナの影響で自宅での食事が増えた上に、おいしい和牛が安く買えるようになり、販売数が増えている。乳牛と掛け合わせた安価な国産の交雑牛よりも売れ行きがいい」と言う。

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 神戸肉流通推進協議会は、協議会の指定登録店で神戸ビーフや但馬牛を3千円以上購入した客に、「淡路島タマネギ」や「神戸ビーフハンバーグ」「神戸ビーフコロッケ」を抽選で各5千人に贈るキャンペーンを今月15日から7月まで実施している。(五十嵐聖士郎)