ホラーの名匠・貴志祐介が語る、感染と恐怖という感情

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上原佳久
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 恐怖という感情があぶり出す人間の姿を見つめてきた、貴志(きし)祐介さん(61)。新作短編集『罪人の選択』(文芸春秋)には、新型コロナウイルスも想起させる災厄におののく未来社会を描いた一編も。電話インタビューに応えた作家は「恐怖はあらゆる選択を正当化してしまう。自由や人権といった揺るぎないはずの価値観をも、相対化してしまいかねません」と懸念を口にした。

 〈地球は、たった一種の新参の生物――チミドロによって蹂躙(じゅうりん)されていた〉

 収録作「赤い雨」は、3年前に書き上げたSF短編。エネルギー問題解決のため、巨大石油企業による遺伝子操作で生み出された赤い藻類「チミドロ」が研究所から流出。胞子を飛ばして人間を含む生物に「感染」するこの新種の藻類が、大地も海も赤く染めてしまった世界が舞台だ。

 支配層は感染から逃れるため、ドームと呼ばれる防護壁に覆われた都市に住む一方、貧困層は胞子で汚染された赤い雨にさらされるスラムで暮らす。体内に入り込んだ胞子による病気で、スラムの人びとの平均寿命は40歳未満。防護壁によって、文字通り分断された格差社会が描かれる。

 貴志さんは、やはり極端な格差社会をモチーフにしたジョージ・オーウェルの小説『1984』を挙げ、「共通するのは支配層に悪意すらないこと。(社会を維持するためには差別的政策も)やむを得ない、と。自分たちが属する集団の外への想像力が失われた状況が、いまに通じるのではと思って書きました」。

 主人公の橘瑞樹(みずき)は…

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