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 大正期の100年前、商店主が活性化の目玉にと立ち上げた映画館「新宿武蔵野館」が新宿駅東口にある。日参する常連も多いこのミニシアターで、公開作品の選定に携わる西島新さん(35)は4月上旬にかけて連日、全社会議で「平日も営業し続けるかどうか」と悩み続けた。新型コロナウイルスへの対応と、映画の灯をともし続けたい思いの間で揺れていたからだ。

拡大する写真・図版武蔵野興業が運営する映画館「新宿武蔵野館」で作品の選定を担う営業本部付主任、西島新さん=同館、藤えりか撮影

 東北新社配給のフランス映画「レ・ミゼラブル」の2月末の公開前後から、新型コロナウイルス感染拡大がさらに深刻となり、開館100年の記念上映企画を延期しつつ、平日は座席間隔を1席空けて時間も短縮し、消毒を徹底して営業した。3月下旬から週末は休館したが、館内は会話がさほどなく安全とする専門家の見解もあり、「こんな時こそ非日常を楽しむ機会を提供できれば」との思いもあった。

 だが、東京都の休業要請に先立つ4月4日から、当面の休館を決めた。上映予定は来年初めまでほぼ埋まっているだけに、延期や中断となった作品をいつ公開できそうか、宣伝計画を練り直しつつ配給会社などと協議を続けている。

 高校卒業後に始めた映画館でのアルバイトで俳優・監督志望の仲間と知り合ううちに、「彼らの作品を劇場に」と思うようになり、同館などを運営する武蔵野興業に2008年に入社。最近では、完成前から注目して今年1月に公開した岩井澤健治監督のアニメーション映画「音楽」が初日から満席続きとなり、同館リニューアル以来の興行収入という「予想以上のヒット」を記録した。

 「シネコンには出づらいけど面白いインディーズ映画を応援する気持ちで公開し、お客さんの口コミで盛り上がって大きくはばたくとうれしい。そうした作品を世に広めてゆきたい」

拡大する写真・図版館内ディスプレーはミニシアターの腕の見せどころ。「まだ見ていない人には見たいと思ってもらえるように、鑑賞後には作品の世界に浸ってもらえるように、独自のデザインを工夫しています」と新宿武蔵野館の西島新さん=藤えりか撮影

 近年は動画配信も隆盛だが、一方で国内の映画公開本数は邦画・洋画とも急増していた。日本映画製作者連盟によると、昨年の全国の合計興行収入は、前年比17・4%増の2611億8千万円と過去最高になった。「(観客も歌ったり歓声を上げたりできる)『応援上映』など、劇場ならではの体験を求める人が増えていた」。それだけに興行界の打撃は大きいが、「だからこそ再開時は劇場で面白い企画をし、沈んだ気持ちを前向きにする一助を担えれば」と収束後を見据える。(藤えりか