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 たばこを吸う人は、新型コロナウイルスによる肺炎が重症化したり、死亡につながったりしやすい。そんな報告が相次ぎ、注目を集めている。喫煙していると、なぜ症状が重くなりやすいと考えられるのか。火を使わない加熱式たばこではどうなのか。周囲の吸わない人への影響は。そして、禁煙すれば、どんなメリットが望めるのか。

 新型コロナウイルスがひきおこす肺炎の重症化と喫煙習慣との関係を示す報告としてよく知られるのは、中国の専門家チームが2月、米医学誌ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンで発表した感染者1099人の分析結果(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2002032別ウインドウで開きます)だ。

 集中治療室(ICU)への入室が必要になったり、亡くなったりした人の割合は、たばこを吸わない人が4・7%だったのに対し、以前吸っていた人を含めた喫煙者では13・9%と、ほぼ3倍に達した。

 ただ、このデータは年齢など重症化にかかわるほかの要素は考慮していないため、たばこのみによる影響がどれほどなのか、もう少し検討が必要だ。

 中国の専門家チームは、欧州の医学誌ヨーロピアン・レスピラトリー・ジャーナルに1590人の分析結果(https://erj.ersjournals.com/content/early/2020/03/17/13993003.00547-2020別ウインドウで開きます)も発表。慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)という病気があって感染した人では、ICUでの治療を必要としたり死亡したりするリスクが、年齢などを調整したうえで2・7倍高いとした。

 COPDは、たばこ病という通称もある病気。たばこなどによって気管支に炎症が起きたり、肺の奥にある肺胞が壊れたりして起こる。少し体を動かしただけで息切れがしたり、せきやたんが続いたりしやすい。

 さらに、中国・武漢市の病院に新型コロナウイルスによる肺炎で2週間以上入院した患者を調べた研究を、中国の医学誌チャイニーズ・メディカル・ジャーナルが載せている(https://journals.lww.com/cmj/Abstract/publishahead/Analysis_of_factors_associated_with_disease.99363.aspx別ウインドウで開きます)。

 対象は78人と少ないが、喫煙歴がある人はない人に比べ、死亡を含む病状悪化の確率が14倍高かったという。この研究では、糖尿病や高血圧は悪化要因としては検出されなかった。産業医科大呼吸器内科の矢寺(やてら)和博教授は「喫煙は、糖尿病や高血圧を上回る重大な悪化要因である可能性がある」とみる。

 米国の研究者らは4月、12本の論文内容をあわせて解析した結果を、正式な論文にする前に掲載するサイトで発表(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.04.13.20063669v1別ウインドウで開きます)。喫煙者は重症化の確率が2・25倍高いとした。

 一般的な肺炎で、喫煙者が重症になりやすいことは以前から知られている。日本人約11万人を対象にした調査で、喫煙者は非喫煙者の1・6倍、肺炎による死亡率が高いといった報告がある。

 長崎大の迎(むかえ)寛教授(呼吸器内科)によると、喫煙している人では、異物を取り除く気道の機能が落ちて感染を起こしやすくなる。空気中の酸素を取り入れて体内の二酸化炭素を出す肺の能力がもともと低くなっているのに加え、免疫力も落ち、症状が重くなりがちだという。「薬を使っても、肺炎のある場所に届きにくくなるので、治療の効果が十分に得られないことが少なくない」

喫煙者は感染しやすい?

 喫煙者は、肺の状態が新型コロナウイルスの感染を招きやすくなっているのかもしれない。最近の研究でそんな説も浮かんできた。

 米国の研究者は2月、「以前吸っていた人を含む喫煙者の肺では、特定のたんぱく質の働きが活発になっている」という研究結果を発表(https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.02.05.20020107v3別ウインドウで開きます)した。新型コロナウイルスは、肺の細胞にある、この特定のたんぱく質にまず取りつき、そこから侵入することがわかっている。「侵入のための取っ手」がたくさんあるため、感染しやすい可能性がある。

 また、喫煙はがんや心臓病、糖尿病にかかるリスクも高める。新型コロナウイルス感染で重症化しやすいとされるのは、これまでの報告によると高齢者のほか、心臓病や糖尿病などを抱える人たちだ。こうした病気を介して、間接的に重い症状を招いているかもしれない。

 新型コロナへの感染を防ぐため、「三つの密」(密閉、密集、密接)を避けるべきだとされているが、密閉された喫煙所には多数の人が集まり、間近な距離での会話を生みやすいといったリスクもはらむ。

 大阪国際がんセンターの田淵貴大(たかひろ)・がん対策センター疫学統計部副部長は、たばこに含まれるニコチンによって肺を中心とした全身の免疫能が落ちると指摘する。火を使わない加熱式たばこにもニコチンは含まれるため、新型コロナウイルスへのリスクはやはり高まると考えられるという。

 禁煙をしても、それまでに壊れた肺の組織は元に戻るわけではなく、悪影響が減るまでには一定の時間がかかる。

 その時間は、病気の種類によって違い、たとえば肺がんのリスクが吸わない人と同等になるには15年ほどかかるといわれる。糖尿病でも10年以上、という報告がある。

 ただ、世界保健機関(WHO)の「たばこユーザーのための禁煙ガイド」によれば、肺の機能は禁煙して2~12週間で高まる。田淵さんは「ニコチンは禁煙の1週間後には体内から消え、免疫力の回復も期待できる。たばこをやめることにはいろいろな利点があるが、新型コロナウイルス感染症の重症化予防に限っても、やって遅すぎることはありません」と話す。

 肺炎へのかかりやすさは受動喫煙によっても上がるといわれ、たばこを吸わない周囲の人のリスクも高めるおそれがある。禁煙することで、家族など周囲の人の重症化リスクを下げることにもつながるという。(編集委員・田村建二)