幻想的で不穏、具象なのに抽象 そんな絵画を「蔵出し」

有料記事

編集委員・大西若人
[PR]

 コロナ禍で閉じている展覧会を紹介する「蔵出し美術展」。英スコットランドに1959年に生まれ、カナダとカリブ海のトリニダード・トバゴで育ち、今は同国とロンドンにアトリエを構えるピーター・ドイグが描く、多彩な作品の世界を「蔵出し」します。

 幻想的なのに不穏、初めて見るのに懐かしい、物質的なのに映像的、具象絵画なのに部分は抽象的……。東京国立近代美術館(東京・竹橋)の「ピーター・ドイグ展」は、そんな多層的な顔つきで、図像があふれる時代の絵画の意義について考えさせる。

 例えば本展ポスターにも使われている、横3メートル近い大作「ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ」。オーロラのような星空の下、カラフルな歩道が奥へと続く幻想的、童話的風景に見える。実は、ドイツのダム湖を写した絵はがきや、古い衣装を着た男2人(1人は作家自身)の写真を組み合わせたものだ。

 近づき注視すると、色とりどりの石組みは抽象的な色面構成に、画面下部の地面は平面性を求めた抽象表現に見えてくる。でも離れれば、物語的で懐かしく、かつ寂しく夢見るような絵画なのだ。

 ドイグが作家活動を本格化させたころ、現代美術では映像表現や空間的な作品が注目され、「絵画は死んだ昔のものとみなされていた」と振り返る。

 その中にあって、自らが体験した数々の地域の文化、風景を踏まえた表現や、映画や絵はがき、ときに日本のスキー場を撮った広告写真なども素材に、多彩なイメージを参照する作風を展開。異なる図像を重ねるコラージュの手法とも、さらにそこから世界を広げるシミュレーションの手法ともいえる。

 画面には筆跡が残り、薄塗りの部分も、厚塗りの部分もある。ときに白い絵の具が盛り上がる「雪」の表現を見せるなど、映像にはない物質性を備える。さらに「小舟」のような特定モチーフを異なる作品で反復。画風もゴーギャン風あり、マティス風あり、キリコ風あり、ホッパー風ありと、遊戯性に満ちている。

 こうした数々の試みは、多文化性が重視され、膨大な数の図像が流布する現代の、逆説も含んだ象徴的な絵画的回答の一つといえる。

 何が描かれているのかを連想し、どんな画風かを確かめる。見る距離を変えると表情が変わることを楽しみ、近づいて質感を味わう。桝田倫広(ともひろ)・主任研究員が「じっくり見ることなしに鑑賞できない」と指摘するゆえんだろう。

作家の言葉とともに作品を紹介

 2月にあった報道向け内覧会でのドイグの言葉と併せ、主な出品作を会場での展示順に紹介する。

【第1章 森の奥へ 1986…

この続きは朝日新聞デジタル会員限定です。残り3285文字

1カ月間無料の「お試し体験」で記事の続きを読んでみませんか?

1カ月間無料 お試し体験

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

すでに有料会員の方はログインして続きを読む
【期間中何度でも15%OFF】朝日新聞モールクーポンプレゼント