拡大する写真・図版藤原辰史氏

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寄稿 藤原辰史・京都大学准教授(農業史・環境史)

 ワクチンと薬だけでは、パンデミックを耐えられない。言葉がなければ、激流の中で自分を保てない。言葉と思考が勁(つよ)ければ、視界が定まり、周囲を見わたせる。どこが安全か、どこで人が助けを求めているか。流れとは歴史である。流れを読めば、救命ボートも出せる。歴史から目を逸(そ)らし、希望的観測に曇らされた言葉は、激流の渦にあっという間に消えていく。

 宮殿で犬と遊ぶ「ルイ16世」の思考はずっと経済成長や教育勅語的精神主義に重心を置いていたため、危機の時代に使いものにならない。IMFに日本の5・2%のマイナス成長の予測を突きつけられ、先が見通せず右往左往している。それとは逆に、ルイとその取り巻きが「役に立たない」と軽視し、「経済成長に貢献せよ」と圧力をかけてきた人文学の言葉や想像力が、人びとの思考の糧になっていることを最近強く感じる。

拡大する写真・図版3月19日、イタリア・ペーザロ市のサンサルバトーレ病院で。本来は総合病院だが、今は新型コロナ患者のためのICUとなっている。医療従事者は12時間交代のシフト勤務。防護服を脱げないため、その間は飲まず食わずでトイレにも行けない。アルベルト・ジュリアーニ氏撮影

 歴史の知はいま、長期戦に備えよ、と私たちに伝えている。1918年から20年まで足掛け3年2回の「ぶり返し」を経て、少なくとも4千万人の命を奪ったスペイン風邪のときも、当初は通常のインフルエンザだと皆が楽観していた。人びとの視界が曇ったのは、第1次世界大戦での勝利という疫病対策より重視される出来事があったためだ。軍紀に逆らえぬ兵士は次々に未知の疫病にかかり、ウイルスを各地に運び、多くの者が死に至った。

 長期戦は、多くの政治家や経済…

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