知的障害者施設、集団感染の現場はいま 「常に緊張感」
障害のある人たちが暮らす施設で、新型コロナウイルスの集団感染が起きたら――。千葉県東庄(とうのしょう)町の「北総育成園」では、それが現実となった。少ないスタッフと医師が、限られた物資で、感染の危険と背中合わせで医療とケアを担っている。(寺沢知海、古賀大己、平井茂雄)
「二次感染しないよう、全員が細心の注意を払っている」
計121人の新型コロナウイルス感染が確認された千葉県東庄(とうのしょう)町の障害者福祉施設「北総育成園」。千葉県船橋市から応援に入り、20日、トイレの介助を担当した介護福祉士の男性(43)は緊張感を漂わせた。
男性は2階の食堂で、ごみ袋を粘着テープでつなぎ合わせた「防護服」を身にまとった。医療用ガウンが不足し、急きょ作ったもの。床に貼られた緑のテープをまたぎ、ウイルスが飛散している可能性が高い、入所者の暮らす「レッドゾーン」へ。用を足した入所者のお尻を支え、便座から立たせた。排泄(はいせつ)物がこぼれれば、雑巾で拭き取った。
約2時間の介助を終え、消毒された「クリーンゾーン」に戻った頃には、全身汗だく。外はコートが欲しくなる寒さだが、看護師らと「熱中症に気をつけよう」と声をかけ合った。
県立病院から応援に入った男性看護師(38)はある日突然、入所者の男性に後ろから抱きつかれた。親しみを込めた行動と思われるが、そばにいた同僚の女性看護師が、すぐに防護服が破れていないかを確認した。男性看護師は「どきっとした。常に二次感染への緊張感はある」と話した。
入院か、それとも…
園はのどかな田園地帯の、木々が生い茂る丘にある。2階建ての本館と3階建ての新館があり、入所するのは20~80代の70人で、多くに重い知的障害がある。全員が個室で暮らし、職員67人が支えている。
その施設を新型コロナが襲った。3月下旬、クラスター(感染者集団)発生が判明した時、入所者は26人が感染し、このうち重症化の恐れがある4人が入院した。職員は32人が感染。多くが入院や自宅待機などで働けなかった。
「感染者は原則入院」が当時の国の方針だったが、県内には多くの患者を受け入れる病床がなかった。障害がある人が入院すれば、病院側の負担が重くなることも明白だった。
どうするか。石出広・支援対策本部長(前県衛生研究所長)らは、異例の決断をした。「軽症の入所者を施設内にとどめて診療する」
陽性57人、「まさか」
発端は3月27日朝だった。入所者6人が突然、熱を出した。
「インフルエンザの時期でもないのに、なぜ」
知的障害者が暮らす「北総育成園」(千葉県東庄〈とうのしょう〉町)の白樫(しらかし)久子副園長(55)は不安を覚えた。
体温計を脇に挟むのを嫌がる人もいたが、急きょ、全入所者の体温を測った。十数人が発熱していた。
その日の夕方、数日前から発熱で休んでいた調理担当の女性職員から電話があった。「新型コロナウイルスの陽性でした。入院します」。涙声だった。
翌28日、症状のある入所者、全職員の計92人を保健所が検査した。夜、その結果がファクスで届いた。
陽性57人――。
「まさか」。白樫副園長はがくぜんとした。
感染症対策は入念にしていた…
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