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コロナワクチン、1年~1年半先? 各国の現状と見通し

新型コロナウイルス

合田禄 今直也 ロンドン=下司佳代子 富田洸平 ワシントン=香取啓介
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 世界の感染者が300万人を突破し、新型コロナウイルスの猛威はおさまらない。期待が集まるのは、感染や重症化を防ぐためのワクチンだ。新たな技術も使い、国内外の製薬会社や研究機関が開発に乗り出している。実際にワクチンを接種できる日はいつ、やってくるのか。

 「ワクチンがあるかどうか次第だ」。英BBCは、来夏に延期になった東京五輪パラリンピックについて、ワクチンが開発されないと、「開催は非現実的」とする英エディンバラ大の公衆衛生の専門家の話を伝えた。「1年から1年半先になると思っていたが、もっと早く実現するかもしれないという情報もある」との期待も示した。

 世界保健機関(WHO)が公表している開発リストによると、4月26日時点で米中などのバイオ企業や研究機関のワクチン候補七つで臨床試験(治験)が始まっている。ほかにも世界中で82の候補があげられている。

 WHOのテドロス・アダノム事務局長は3月末、会見でワクチン開発には「12~18カ月かかる」と述べた。通常、ワクチン開発には数年以上かかるとされる。それよりも早い実用化の可能性があるのは、ウイルスの「遺伝情報」や、遺伝子組み換え技術を使う新しいタイプのワクチン開発への期待が大きいからだ。

 インフルエンザなど、いま使われているワクチンの多くは、鶏の卵のなかで増やしたウイルスを使う。しかし、この方法だと、病原性があるウイルスを取り扱うため、専用の設備が必要になる。新型コロナだと、WHOが定める施設基準「BSL」(バイオセーフティー・レベル)でエボラウイルスなどで必要な「4」に次ぐ、「3」が求められる。新型コロナウイルスは卵のなかで増えず、特殊な細胞を使って増やす必要があるという。

 さらに人で試験する前に、ウイルスの毒性を弱められているかの確認などに数カ月かかり、実用化までに長い時間を要する。

 一方、遺伝情報などを使う場合はウイルスそのものを使わずに済み、開発期間を大幅に短縮できると期待されている。

 米国内で臨床試験を始めたのが、米国立保健研究所(NIH)。米バイオ企業「モデルナ」と共同開発するワクチンは、遺伝情報を伝える「メッセンジャーRNA(mRNA)」という物質を使う。市販までに少なくとも1年~1年半かかる見通しだが、今秋には医療従事者らに使える可能性があるという。

 英オックスフォード大は4月23日、遺伝子組み換え技術を使ったワクチンの治験を始めた。協力者を募集する国営の国民保健サービス(NHS)によると、18~55歳の健康な最大1100人超を募る。早ければ今年9月にも有効性の結果が出る。開発チームのサラ・ギルバート教授は英紙タイムズに「動物実験の結果が出始めたばかりだが、これまでのところうまくいっている」と語った。英政府は21日、2千万ポンド(約27億円)の追加支援を発表した。

 国内でも、大阪大と阪大発の創薬ベンチャー「アンジェス」(大阪)は、ウイルスの一部をつくるDNAを使った「DNAワクチン」の開発に着手し、動物実験を始めた。阪大はウイルスを覆う「殻」を再現した粒子を使う方法でも開発を急ぐ。

 ウイルスそのものを使うと、臨床試験の開始までに1~2年かかるが、DNAだと半年、この粒子の場合は半年から1年に短くできるという。阪大はウイルスそのものを使う従来の方法でも研究を進める。金田安史理事(遺伝子治療学)は「どれが効果を示すかは治験でないと分からない。そのために1の矢、2の矢、3の矢を撃つ」と話す。

 いまのところ、コロナウイルスで実用化しているワクチンはない。感染しても普通の風邪で終わることが多く、ワクチンをつくる必要がなかったためだ。

 しかし、2002~03年に同じコロナウイルスが原因の重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行し、世界各国でワクチン開発が始まった。しかし、結局実現には至らず、約8千人の感染者、約800人の死者を出し、流行は終息した。

 北里大の中山哲夫特任教授(ウイルス感染制御学)は「病原体の遺伝情報を使ったワクチンが人に広く使われた経験はなく、有効なものがつくれるかは未知数だ。どんな方法ならば新型コロナウイルスに対して有効なワクチンをつくれるかも分かっておらず、できる時期は見通しにくい」という。(合田禄、今直也、ロンドン=下司佳代子)

ワクチンは「国家安全保障に不可欠」

 ワクチンが使えるようになるには、臨床試験を通し、有効性と安全性を証明することが不可欠だ。第一段階で主に安全性、第二段階で主に有効性を確認。第三段階で人数を増やして有効性と安全性を確かめる。

 大阪大免疫学フロンティア研究センターの宮坂昌之招へい教授(免疫学)は「ワクチンは健康な人に使う。重大な副作用が出ると大変なことになる」と話す。通常は数千人規模の臨床試験が必要で、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の審査などを経て、一般の人が使えるようになるには「2年以上はかかる」とみる。

 審査にかかる時間は通常は1年ほど。ただし、パンデミック(世界的大流行)の状況下で、ほかの医薬品より審査が優先され、期間が短くなる可能性はある。

 海外企業のワクチン候補が有望だと分かってくれば、複数の国で同時に臨床試験をする「国際共同治験」に参加することもある。海外で承認されたワクチンを緊急輸入する「特例承認」という道もあり、日本と同水準の承認制度を備えている国で承認されていれば使える。2009年に新型インフルエンザが流行した際は、英国とスイスの企業のワクチンが特例承認された。

 ただ、ワクチンは自国民の健康を守る「安全保障」として考えるべきだとの意見もある。輸入に過度に期待せず、国内での生産体制が必要との声は強い。

 ドイツの地元紙ウェルトは3月、米国がワクチン製造を手がける独バイオテック企業に対し、資金提供する代わりにワクチンを独占できるようにしてほしいと申し出た、と報じた。

 企業も米側も報道を否定したが、AFP通信によると、ドイツ政府は国内企業が欧州外から乗っ取られないように規制する法案をつくった。アルトマイヤー経済相は「ワクチンのようなきわめて重要な物資の供給などは、ドイツの国家安全保障に不可欠だ」と述べた。欧州委員会は、この会社に最大8千万ユーロの資金支援を行うと発表している。

 阪大の金田理事は「海外でワクチンができたとしても、日本に供給されるのか危惧している。あれだけ欧米で死者が出ているので、まずは自国に供給するのは当然だ。日本は日本でワクチン候補を持っておくことが必要だ」と話す。(富田洸平、ワシントン=香取啓介)

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