米国立保健研究所(NIH)は29日、抗ウイルス薬「レムデシビル」の大規模臨床試験の結果、新型コロナウイルスの感染者の回復を早めることが分かったと発表した。ニューヨーク・タイムズ紙によると、米食品医薬品局(FDA)は、新型コロナ治療用として緊急時の使用許可を近く出す予定だという。
新型コロナで効果が確かめられ承認された治療薬はまだない。レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療のために開発された薬。新型コロナの増殖を抑える効果が試験管で確認され、複数の臨床試験が世界で同時進行している。
今回の臨床試験を行った米国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は、「薬がウイルスを阻害することが証明された。データは非常にクリアに、レムデシビルは回復時間を減らすということを示している」と解説。今後ほかの専門家の査読を受けることが必要だとしつつ「標準的な治療法になり得る」と期待を示した。FDAは「できるだけ早く、適切に患者が利用できるようになるため、(開発する米医薬大手)ギリアド・サイエンシズと協議している」としている。
NIHによると、臨床試験は2月21日から米国や欧州、アジアの1063人を対象に行われ、新型コロナに感染した二つのグループにそれぞれレムデシビルと、偽薬を与えて効果を比べた。すると、偽薬を与えた人たちは回復まで平均15日かかったのに対し、レムデシビルを与えた人たちは平均11日と31%短かった。死亡率もそれぞれ11・6%、8・0%と、レムデシビルを与えた人たちの方が低かったという。
最初に試験に参加したのは、横浜港に停泊中に感染拡大したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客で特別機で帰国した米国人だという。
緊急時の使用許可は、通常の新薬承認とは違い、連邦政府が公衆衛生上の非常事態を宣言している場合に、ほかに手段がない場合に限り、特定の薬や検査について使用を認めること。今回のコロナ危機では、人工呼吸器やウイルス検査などが許可されている。
一方、29日に英医学誌ランセットに発表された中国・湖北省での研究では、新型コロナの感染者237人を対象にレムデシビルと偽薬の比較試験をしたが、顕著な効果は見られなかったとしている。
人を対象にした試験が進んでいるレムデシビルは、米トランプ大統領が早期の承認に期待を表明、WHOも治療効果を有望視している。日本でも、海外での承認後、簡略な手続きで審査を通す「特例承認」を適用する方針だ。
米国や、日本の国立国際医療研究センターが加わる国際共同研究チームは今月10日、日米欧などの重症患者53人分のデータをもとにした途中経過を発表。36人で呼吸状態が改善し、25人が退院した一方、7人が死亡、6人は重症とした。ギリアド社によると、感染拡大に伴って試験の症例は急増しており、現在は世界で7600人に上る。
世界の注目度の高さを表すように、ギリアド社の株価は報道のたびに大きく値動きしている。ただ、C型肝炎やエイズなどと異なり、治療を受けなくても多くのケースでは体内から自然にウイルスが消えていくことから、薬治療効果を見極めるのは難しいという指摘がある。(香取啓介=ワシントン、嘉幡久敬)
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