雇用調整助成金、相談20万件 申請者「心折れそうに」
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、休業手当の一部を国が支援する「雇用調整助成金」(雇調金)の申請に動く企業が急増している。労働局の相談コーナーには申請を希望する人たちが殺到。「3密」防止策として予約制に切り替え始めたが、対面相談が1カ月待ちの地域もある。
厚生労働省によると、新型コロナの感染拡大に伴って雇調金の特例措置が発表された2月14日以降、全国の労働局に寄せられた関連の相談は20万件以上。申請に必要な休業計画の提出は今月24日までに2万件を超え、うち2541件が申請され、282件の支給が決まった。5月以降、申請は急増するとみられる。
大阪府内では1日あたり200組近い対面相談に応じている。電話も含めた相談件数は、今月24日までに1万6589件にのぼる。
相談殺到、4時間待ちも
大阪労働局の助成金センター(大阪市中央区)では、約50人が相談対応に当たる(対面相談は1組40分)。もともと1ブースで対応していたが、3月下旬から相談が殺到。会議室を転用し、同27日から相談コーナーを設けた。
4月に入って相談がさらに急増。3日は約70人、週明けの6日は約100人が並んで3時間待ちの状態に。6日の昼過ぎからは完全予約制に改めた。担当者は「3密になりかねず、対応しきれない状態だった」。予約を取りつけに窓口に来る人が後を絶たず、27日からは電話のみで予約を受け付けることになった。
30日午前に申し込んだ場合、最短で5月25日に面談できる状況だ。同労働局は30日、大型連休中の5月2~6日も予約制で対面相談に応じることを決めた。電話対応や審査に当たるスタッフが足りないため、センターは非常勤職員60人を採用する方針だ。
兵庫労働局のハローワーク助成金デスク(神戸市中央区)は、着信用の電話10回線が埋まり続け、今月13日には400件を超える電話対応に追われた。
特に多いのは「うちは支給対象になるのか」「うちの場合の受給率は何割か」という問い合わせ。相談窓口は6~8日、長い人で3時間以上待ちの状態。9日から予約制に変更した。
対面相談は1組1時間。飛び込みで来る人も多く、急を要する特別な事情があれば対応しているという。
京都では3月末から、特に土産店や宿泊業といった観光関連の企業からの相談が目立つ。京都労働局の助成金センター(京都市中京区)の対面相談も、今月20日から予約制に切り替えた。その前は50人ほどが順番待ちで並び、4時間待ちの状態だった。
手続きに複雑さ、申請者「心折れそうに」
相談に訪れる人たちは切実な状況に置かれている。24日、大阪労働局の助成金センターと、兵庫労働局のハローワーク助成金デスクを訪れた人たちに記者が話を聞いた。
大阪府吹田市で印刷会社を営む男性(62)は現在、全従業員を休ませているという。主な受注は商業施設や交通機関が開くイベントのポスターやチラシ。東京五輪が近づいて依頼が急増するはずが、イベントが続々と中止になった。例年に比べて2月の売り上げは5割減、3月は7割減、4月は9割減の状態だという。
男性は「みんな生活があるので休業中も満額を先払いするが、きつい。助成金などをもらっても夏までが限界。それ以降はもたない」とこぼした。
神戸市と大阪府枚方市でアパレル店を経営する男性(55)は、4月8日から社員とアルバイトを休ませている。売り上げは3月が2割減、4月がほぼゼロに。「緊急事態宣言は5月6日までだが、延長されるなら店を閉めるほうが得」とため息をついた。
社会保険労務士の男性(54)は、大阪や兵庫の飲食店に経営の助言をする会社の役員を務めている。取引先の休業が相次ぎ、3月は売り上げが半減。4月7日の緊急事態宣言を受け、社員もアルバイトも休ませている。「飲食店は助言を受けるどころでなく、こちらも休業せざるを得ない。休業中もオフィスの家賃が発生するのがつらい」
兵庫県内で複数のアート教室を営む女性(69)は3月初めから教室を休みにしたが、講師の社員とアルバイトに通常通りの額を支払っているという。「みんな生活があるからね。身銭を切ってでも支払いを続けるが、終わりが見えないのがしんどい」
訪れた人たちが一様に口にしていたのが、申請手続きの複雑さだ。平均賃金や労働者名簿といった用語を理解し、休業協定書や就業規則、給与規定などの必要書類を用意する必要があるからだ。
大阪市北区で和食店を営む男性(49)はアルバイトの人数を減らし、夜の営業も今月6日から自粛している。記入マニュアルを見ながら、書類をおおむね書き上げるまでに1週間かかった。「過去のアルバイトの出勤日と給料をこつこつ調べる必要があり、何度か心が折れそうになった」
神戸市北区で装飾品の卸販売会社を営む男性(44)は、アルバイト1人を4月から休ませている。4~6月分の助成金を申請するつもりだが、申請に必要なタイムカードも出勤簿も付けていないため、さかのぼって勤務記録をつけなければならないという。「初めての人には書類が複雑。従業員が雇用保険や労災保険に加入していて、休業手当を支払っていることが証明できればいいようにしてほしい」と求めた。
大阪府内の金属加工会社の女性役員(50)は相談の結果、休業手当が出るつもりで従業員3人に支払った4日分が助成の対象外とわかった。「制度がどんどん変わるから勘違いした。リーマン・ショックのときよりは融通がきくけれど、それでも専門用語が多くなじみがないと難しい」(市原研吾、後藤泰良)
特定社会保険労務士の旭邦篤さん(50)の話
雇用調整助成金は助成率など特例措置の拡大や要件の緩和が相次いでいる。手続きの簡素化や支給の迅速化を目指したが、提出書類が変わるなど、現場では混乱が生じている。必要書類をそろえるのも大変だし、記入方法を理解するのも難しい。各地域の相談窓口は大混雑で、社会保険労務士らへの依頼も殺到している。今回はリーマン・ショックの時よりも、急激に資金繰りが悪化している企業が多い印象だ。申請から支給までの期間を短縮し、労働者を雇用し続けている事業主を支えていく必要がある。
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〈雇用調整助成金〉 原則として1カ月の売り上げや生産量が前年同月から5%以上減り、従業員に休業手当を払った企業が対象。業種は問わない。従業員1人あたりの助成上限は日額8330円。厚生労働省は手続きを簡素化し、申請から支給までの期間を2週間とすることをめざす。新型コロナの感染拡大に伴う4~6月の特例措置として、従業員を解雇せず平均賃金の6割以上の休業手当を払っていれば、中小企業の場合、支払った手当相当額の9割が国から助成される。
同省は今月25日、平均賃金の6割超の手当を払った中小企業に対し、6割を超えた分は10割助成する方針を発表。知事の要請に応じた休業で、平均賃金の全額に相当する手当を払っていれば、全体の受給率が10割となる場合もある。同省は土日祝日も対応するコールセンター(0120・60・3999。午前9時~午後9時)を設けている。
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